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[日時] 2014年5月29日(火)14:00~15:30
[場所] 大阪中之島ビルB1階
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講師
一般社団法人日本医工ものづくりコモンズ 常任理事
早稲田大学ナノ理工学研究機構教授 谷下 一夫 氏
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●日本の医工連携における課題 |
日本のものづくりの技術は世界に誇るもので、医療現場をイノベートさせるものとして大いに活用できるが、現状は、医療機器は輸入超過が続いている。その原因としては、「医療ニーズに立脚せず、技術ありきで開発していること」、また「医工連携の人材育成の仕組みがないこと」がある。
シリコンバレーには、循環器の医師でベンチャー企業家でもあるフォガティ先生が、医療現場とものづくりを融合するために病院内に設置した研究所(Forgarty Institute for Innovation)がある。また、スタンフォード大学の「Biodesign Fellowship プログラム」は、学生をスタンフォード大学病院に派遣し、事業化できそうな医療ニーズの発掘、プロジェクトの立案を経て、最終的に投資家の前でプレゼンをさせるという、徹底した実学教育を行っている。
ミネソタ州には、医療機器企業が600社ほど集積している。中でも最大規模のメドトロニックのモットーは「100の商品の内、99のアイデアはベッドサイド」であり、医療ニーズに基づく開発を重視していることを意味している。
日本では、医療分野とものづくり分野が乖離し、情報共有ができていない。何とかこの2つの分野の乖離を繋げなければならないということで、2009年に「ものづくりコモンズ」(以下「コモンズ」)という組織を立ち上げた。
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●医療現場とものづくり現場をつなぐ |
コモンズは「学会」に注目し、医学系の学会と工学系の学会がうまくスクラムを組めば、両分野の融合が進み、医師がものづくりに目を向け、ものづくり側も臨床の医師から医療現場のことを直接教えてもらうことができると考え、現在、医療系、工学系合わせて、合計16の学会と提携している。また、コモンズでは、「①医師との対話ドリブン開発」と「②製販(医療機器製造販売業)ドリブン開発」という2つのアプローチを重視している。①は、臨床の医師と十分ディスカッションしながら開発テーマを立案していこうというもの、②は、医師のニーズ発掘や薬事、販路開拓等の経験が豊富な製販企業の力を借りようというものである。
①について、医師との対話は不可欠である。なぜなら、ニーズには様々な背景があり、それらはディスカッションを重ねることによって把握できるからである。個別の医師が発する特定の項目だけを受け取ると、当該医師及びその所属病院以外に販路が見つからないということが起こり得る。
うまくいっている企業は、特定の医療機関と密に情報共有を行っており、医師からニーズが提示されるような対話の機会を積極的に作っている。同時に、独自性の高いものづくり技術を持っている。機器の開発そのものが、医師の実績にもなり、企業の事業化にも繋がっていくという意味で、医療側と技術側のニーズがうまく整合しているのが、成功している企業の特徴のようだ。
②の考え方は、最近非常に注目されていて、新聞等で取り上げられているほか、今年2月に、製販企業が集積する文京区と、ものづくり企業が集積する大田区が協定を取り交わしている。製販企業は、医療ニーズを発掘する仕組みを自らの中に持っているほか、臨床分野の動向にも詳しく、医療機関とのパイプを忍耐強く作っている。
コモンズの活動として、臨床学会におけるマッチングがあるが、昨年11月には、横浜パシフィコで開催された内視鏡外科学会の展示会場の一部に講演スペースを設け、15名の医師が医療ニーズを、17社が技術シーズを紹介し、さらに技術シーズのブースを設けて、マッチングをおこなった。同様の取組を国内数か所で実施している。
コモンズの特徴的な活動が「ものづくりサロン」である。これは、ものづくり企業が、手術に使う鉗子類やメスの使い方、治療法などを医師に教えてもらう場である。例えば、トレーニングラボという内視鏡の練習装置で実際に作業をさせてもらったり、いろんな鉗子を全部手に取って触ったりできるというような、実学の場を設けている。
また、地方のものづくり企業の前で、医工連携のあり方をお話しするセミナーを実施している。参加企業には、非常に熱心で、何とか自らの技術を医療分野で活用したいという意欲と熱意にあふれており、かつ非常に優れた技術をもっているという共通点がある。そのような日本のものづくりの技術を、なんとか医療分野に活用できるような社会になれば、強い医療産業を世界に向けて発信できるようになる。
コモンズが医療ニーズに基づく開発チームを応援するスキームのイメージは、医療ニーズとものづくり技術をマッチングさせ、医師、製販企業、ものづくり企業、マーケティング関連企業など、様々な専門家がコンソーシアムを組み、開発チームが独り立ちできるように、知恵を出して支援するものである。医療機器開発には様々なケースがあり、我々のマンパワーだけでできないことは多々あると思うが、それは深い連携の中で、頭脳集団の力を借りながらやろうと考えている。既に、我々が支援したチームが様々な活動を行っている。
実は、マッチングはそう簡単ではない。なぜなら、ニーズには、改良・改善ニーズから革新的な医療ニーズまで幅があり、また、シーズにも、技術として完成されている既存のもののほか、研究中のものもあるからである。
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