一般財団法人大阪湾ベイエリア開発推進機構
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「大阪湾ベイエリアの戦略的な将来像を探る」連続講演会 第6回
当財団では、大阪湾ベイエリアの産業集積動向や戦略などについて、多様な講師をお招きする連続講演会を開催しております。第6回の講演内容について紹介致します。
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■テーマ: 東日本大震災からの日本経済の復興と関西の再生
■講 師: 京都大学大学院 工学研究科 都市社会工学専攻 教授 藤井 聡 氏
■日 時: 平成23年10月12日(水)
■場 所: 大阪大学中之島センター 7階 セミナー室
■参加人数: 57名
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講演の様子
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●はじめに
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 京都大学の都市社会工学専攻で教鞭を執っています藤井です。
 「大阪湾ベイエリアの戦略的な将来像を探る」というシリーズの講演会にお招きいただき、ありがとうございます。本日は、東日本大震災からの日本経済の復興と、関西の再生についての話をしたいと思います。
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●関西の凋落
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 私は奈良県生駒市の出身で、生駒小学校、生駒中学校を出て、高校は教育大学付属の平野の高校だったので、平野区に通っていました。大学から京都大学で、一時期7年ほど東京の工業大学で教鞭をとり、またスウェーデンに1年間留学しましたので、合計8年は離れていましたが、それ以外はずっと関西におりました。
 関西では、20年ほど前から「昔は東京か関西かと言われたが、今は元気がなくて、一地方になってしまった」という話を聞いています。20年というのは、そういう話を耳にし始めるのは社会人になってからだからですが、多分、私が小学生くらいの時からそういう話があったのではないかと思います。やはり、70年前後の高度経済成長期、岡本太郎氏が太陽の塔をつくられた大阪万博のイメージがあると、どうしても今の関西のイメージが小さくなったように見えるわけであり、諦観、諦念のムードも漂っています。
 今や、東京に水を空けられてしまいました。私も東京に7年間住んでいましたが、やはり環状線と山手線はサイズが全く違い、山手線は驚くほど大きいですし、空港も大きくなりました。投資も、東京は雪だるま式に大きくなっていきますが、こちらは石が転げ落ちるようにダメになっていくという印象があります。それで、皆が「もうあかん」と思っているわけです。
 一方、リーマンショック後はそうでもありませんが、一時期は名古屋が非常に元気でした。世界のトヨタは9兆円企業で、その半分ほどが日本のGDPに関係しています。東京が日本のGDPの30%程度で150兆円、京阪神と中京圏を合わせて30%なので、関西のGDPは90兆円くらいですが、名古屋はトヨタが元気だったため、愛知万博の開催等、羽振りが良かったのです。それに対して関西は、大阪のミナミやキタは今も大勢の人が歩いているので、全くダメというわけではありませんが、昔に比べるとかなり落ち込んでいます。
 他方、福岡県なども元気です。実態はともかく、「アジアの成長を取り込む」と言って本当に元気です。それに対しても、「関西は何かパッとしない」とずっと言われてきました。皆が潜在的にそう思っています。
 さらに、大手企業の本社は「関西にいても商売にならない」と、次々に東京に移転しています。大手ゼネコン等も関西にあった本社を移転しましたし、大手の電機メーカーも本社を移転しました。そして、そのように企業が逃げれば、逃げるほどマーケットサイズが小さくなっていきます。
 そういう状況で、「関西はダメだけれども、東京や名古屋、福岡は元気だ」と思っていたのですが、実は日本という“船”自体が傾きかけていて、関西はその中でさらに沈没しかけていることがわかってきました。今の日本の凋落振りたるや凄まじく、そうなると、日本が沈み、且つその中でさらに沈んでいる関西の凋落は2乗で沈没しているという状態になっています。
 そうは言いながらも、琵琶湖の北の方や奈良の南の方、和歌山の南の方等、もっと沈んでいるところはあります。日本が沈んでいて、その中で関西が沈んでいて、その関西の中でもさらに地方が沈んでいるという3乗のような形で沈んでいるところは、もうどうしようもありません。正直なところ、日本人はもう諦めています。もうだめだと思いながら「何とか頑張らなければならない」と言っているのですが、誰も答えなど持っていません。どうしたらよいのか、わからないまま、首まで水につかりながら沈んでいくような感じです。
 その一方で、上海などは元気です。先日、上海に初めて行きましたが、本当に元気で、観光地も大変な人の数です。そういう様子を見る度に「関西はダメだ」「日本はダメだ」と思ってしまいます。
 元々そのような状況だったところに3月に地震が起こり、より一層落ち込むような感じになってしまいました。その上、ギリシャやアメリカやヨーロッパがおかしくなった関係で、円高になってしまいました。内需だけでビジネスをしている方には直接的な影響はないと思いますが、外需に直接、間接に関係している業者の方々は大変です。このように、今の日本はもう散々な状態です。
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●関西再生の方法論
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<関西を再生する施策案>
(1)関空のアクセスの整備
 しかし、私は、関西を浮上させるのは、それほど難しいことではないと考えています。
 例えば、まず、関西空港のアクセスをもっと良くします。新幹線の駅と大阪駅と関空の間を結んで地下にリニア等を通します。そうすると、新幹線を降りて10~15分程度で関空に行くことができます。橋下知事も言っていますが、伊丹空港は、副首都の構想があるのでリザーブしておく必要があるかもしれません。いずれにしても関空へのアクセスを非常に便利にします。
 日本人は、これに気づいていながら、最初から「できない」と諦めているので、最近は議論にも上らなくなりましたが、空港へのアクセスは都市の要です。福岡がなぜあれほど元気なのかというと、空港が便利なところにあるからです。東京が上海等との差を相対的に縮められてきたのも、羽田空港と成田空港が遠いためです。上海はリニアで都心と空港を10分以内でつないでいます。そういう面からも、明らかに空港のアクセスが良くない都市は生き残れません。それは歴史を見れば一目瞭然です。
 では、その整備にどのくらいの費用がかかるかと考えますと、3~4兆円くらいではないかと思います。それで、とにかく関空を便利にします。伊丹については、橋下氏と石原東京都知事が言っている副首都の話がありますが、スペアなので大した効果は期待できません。それよりも、リニアが関空に通ると、関西は大変に活気づきます。
 公共事業には事業効果と施設効果の2種類の効果があります。これは、フロー効果とストック効果と言い換えることもできます。いずれにしてもゼネコン中心ではありますが、3~4兆円プロジェクトが関西圏に投下されると、関連産業は山ほどあり、特に、リニアは電機産業に大きく関わるので、大変なお金が回ります。
 そうなると、乗数効果で、投下された3兆円がグルグル回って、結果的に北新地も百貨店も賑わうようになります。ゼネコンが3兆円の事業を受注して、そのまま箪笥預金してしまうとGDPは3兆円しか伸びませんが、社員の給料になって、飲食代に使われたり、ボーナスが出て1~2ランク上の車を買ったりすると、次々に効果が波及していきます。そのようにして何倍も膨らむのが乗数効果であり、リニアをつくるために毎年4,000億円ずつ投下すると、関西のGDPはそれだけで1兆円強増えます。これはフロー効果で、リニアの整備による経済波及効果は入れていませんが、ゼネコンに金が回っただけでGDPが1兆円程度増えるということです。
 それだけではなく、関空のアクセスが良くなると、間違いなく世界の企業が触手を伸ばします。私は仕事でよく広島に行きましたが、関西に住んでいると広島は行き難いところではありません。ところが、東京に住んでいる人間にとっては、広島は行きたくない場所です。それは、空港が不便だからです。飛行機を降りてから1時間10分もかかります。つまり、4時からの会議に出席するのに1日かかるような状況になるのです。ところが、福岡は空港から7分程度で天神や博多に行けます。その精神的ストレスは全く違います。広島は新幹線の駅があるのでまだもっていますが、東京とのリンクは非常に薄くなります。ですから、リニアが通って関空が便利になると、間違いなく東京より便利になるので、いろいろな企業が立地を考えるようになります。
 ところが、この何とも当たり前の議論が、今はほとんど忘れられています。国交省の中では、当然、理解されていますが、資金がないので議論になりません。もはや「緊縮財政を主張する(霞ヶ関の一部の)勢力」と戦う気が希薄になってきているのではないかと思います。そういう気概があれば何とかなるのですが、現状では,その流れは変えがたいようです。しばしば色々な省庁の方からは、予算を決める権限のある方々は「削る」のではなく、「付けてやっている」という感覚をお持ちのようで、むしろ、「(ゼロでもいいところを)付けてやってるんだから、少ない少ないと文句を言うな」という雰囲気すらある、という話を聞くことは少なくありません。
 こうなると、政治家にきちんと財政出動の意味を理解していただいて、上から言ってもらうしかありません。「緊縮財政を主張する勢力」が一番恐れているのは、「日本を救いたい」と国を慮るリーダーシップのある政治家に、「日本を良くしよう」という目的からたくさんのお金を出させられることなわけです。そういう勢力は、とにかく、出す金を減らしたいと考えているので、日本がどうなるかということよりも、財政の均衡、つまり、「プライマリーバランス」が良くなればよいと考えています。
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(2)新幹線の整備
 こうした話は別としても、リニアをつくると、フロー効果だけではなく、ストック効果が出てきます。
 例えば,関西を浮上させるためには、当然ながら、中央新幹線のリニアも整備しなければなりません。現在の状況でリニアが(東京名古屋間で整備され、大阪への延伸はその10年以上後という段取りで)整備されると関西の凋落は「決定的」になります。
 新幹線の整備法があると、国がいろいろと資金を工面しながら、建設国債を発行して必要な資金を充当して、地元負担も加えてつくりますが、上記のような「緊縮財政を主張する勢力」のために、毎年、約800億円以上は増やせないという思い込みが霞ヶ関には蔓延している節があります。一方で今、リニアは国が整備するのではなく、民間企業のJRが整備することになるので、短期間に完成することは不可能で、時間をかけてつくりますが、そうなると、当然、東京からつくり始めて、まず名古屋まで整備します。そこまでで10数年かかり、それでしばらく置いておくという話であるので、大阪まで来るのはさらに20年くらい後になります。その10年のタイムラグの間に、大阪は間違いなく、二度と這い上がれないくらいの差を東京と名古屋圏につけられてしまうわけです。それが分かっていながら、「国はオカネを出せないし、JRさんに投資してもらうしかないので、仕方がない」となってしまっているのです。
 しかし、何度も申し上げるように、緊縮財政の論理や民間企業の論理の論理を別にするなら、関西を浮上させるのは、方法論としては簡単です。つまり、最初に関空のアクセスを良くして、それと共に建設国債を発行して、10年以内に東京と大阪の間にリニアを敷けばよいわけです。それから、当然ながら第二名神高速も淀川左岸線も直ちにつくります。
 また、今のままでは北陸は完全に東京に「取られて」しまうことになるでしょう。北陸新幹線が富山まで伸びると東京~富山のアクセスが非常に良くなるので、富山と金沢は完全に東京都市圏になってしまうわけです。緊縮財政の考え方を前提とするような今の枠組みでは,敦賀までで息切れして、それ以上は延びることはありません。せっかく敦賀まで来ているのに、お金を出したくないから、大阪まで引きたくない,ということになっているのです。そういうことからも、今のままなら関西がダメになるのは決定的です。
 そこで、京都を通して大阪まで引っ張ると、北陸のエッセンスを関西がまた吸収することができ、かつ逆もまた然りとなって、関西と北陸が共に発展していくことができます。これも最近では全く議論されていませんが、このように、新幹線というのはまちの発展にとって非常に大事です。
 明治時代までは、人口ベスト15の大都市が全国に散らばっていました。今からは想像できませんが、今も大都市である東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、仙台などに加えて、熊本、鹿児島、徳島、和歌山、金沢、富山、函館などが大都市だったわけです。つまり、ベスト15都市の約半分は今の大都市ではなかったということで、逆に言えば、半分しか生き残っていないことになります。
 一体何がまちの盛衰を決定づけたのでしょうか。何によってまちは発展し、何によってまちは発展することを阻害されたのでしょうか。その答えは簡単です。現代の政令市と比較すると、昔は大都市ではなかったのに今は大都市になったところとして、札幌、新潟、さいたま、千葉、相模原、川崎、静岡、浜松、岡山、北九州、福岡が挙げられます。札幌を除くと、すべて新幹線が通っているところになります。つまり、都市間の公共交通の投資をしたまちは豊かになったのです。数珠つなぎで豊かになっていったわけですが、都市の発展とはそういうものです。
 都市は、交流をすることで発展します。人と人が行き交うと、一つの企業が多くの人を通勤で集めることができますし、あるいは商圏も拡大し、いろいろな交流もできるようになります。交流を繰り返しながらまちは発展するものであり、だからこそヨーロッパの街々はシルクロード沿いに発展していったわけです。
 言い換えると、交流がなければ、まちは発展しません。交通がまちの発展を決定づけるのです。したがって、新幹線の投資をしたところは数珠つなぎに発展しましたが、新幹線の投資をしてもらえなかったところはすべて敗者になりました。だからこそ、もし、敦賀~大阪に新幹線が通ると、通ったところだけではなく、沿線全部が発展します。このわずかな区間を通さないことによって、大阪は決定的に差をつけられてしまうのです。
 つまり、北陸新幹線を関西に通すと、一体的に発展することができ、しかも、金沢や富山は東京よりも大阪の方が時間・距離が近いので、それらの都市の活力はかなり関西に来ることになります。これは間違いありません。
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(3)災害対策
 それから、マグニチュード9の東南海・南海地震が発生して、6mの津波がくると大阪は水没するかもしれないという議論があります。津波の高さが3mなら大丈夫ですが、6mに達すると危ないかもしれないと言われているわけです。
 水没しないようにするには、二つの方法があります。一つは、そうならないように祈ることですが、祈っても津波は来るかもしれないので、やはり6~7mの堤防をつくることが必要です。今の3m余りの堤防を高くするわけですが、それには約4~5兆円かかると言われています。
 このように、まずは数兆円でリニアを通し、2兆円ほどかけて北陸新幹線を敦賀から大阪まで引っ張って来ます。それから、第二名神高速道路も通し、淀川左岸線も通して、堤防もつくります。
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(4)港の大水深化
 それから、港が浅いので、これをもっと深くしなければなりません。今は、世界で最も大きな船が日本に停泊できない状況なので、徹底的に投資をして、港を大きくします。今は、大型船が入港できないために、仕方なく釜山や上海で積み替えて小さな船で日本に来ています。ヨーロッパやアメリカと基幹航路で往来する時に、船が直接入れないという問題があるのです。
 昨年「公共事業が日本を救う」という本を出した時点で、トランスシップ率は15%程度でした。中国等との貿易ではトランスシップはないので、トランスシップになる可能性のあるところが5割程度とすると、その30~40%が実際にトランスシップになっていることになります。そのために、物流コストが高くなっているという状況があります。
 当然ながら、神戸港は、震災のために入港する船が他の港に行ってしまったままという状況があるのですが、それを取り戻すにも、港が浅いままでは取り戻せないのは明らかです。したがって、港を深くする必要があり、そのためには5,000億円程度、大まかに見ても1兆円あれば何とかなります。
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<投資によって期待される効果>
 そのように、リニアをつくり、新幹線も引っ張って、空港のアクセスも良くして、港も深くして、全部整備すると20兆円程度になります。これを10年かけて整備していけばよいわけです。つまり、年間2~3兆円の投資になりますが、そうすると乗数効果、すなわちフロー効果だけで関西のGDPは名目で6~8兆円上がります。
 さらに、ストック効果があります。つくったものがたとえ関西で効果を上げなくてもGDPは7~8兆円くらい良くなりますが、それだけではなく、ストック効果が発揮されて、いろいろな船や人が来て、いろいろなところと交流できるようになります。それが大まかに見て2倍強あると、関西のGDPは20~30兆円ほど上がります。元々80~90兆円のGDPのところに10年以内に20~30兆円が上積みされるわけですから、相当に良くなります。そうなると、あとはポジティブスパイラルで、上手くすると雪だるま効果で段々と大きくなっていくこともあり得るのです。
 そう考えると、関西の再生は難しくありません。「そんなことはない」と思われるかもしれませんが、20~30兆円の投資を実行すればよいだけの話です。
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●日本の現状と関西に求められるもの
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<インフラによる東京圏の拡大>
 このように、本来、関西の再生はそれほど難しい問題ではありません。ところが、実行されないかもしれません。これが実行されなければ、関西はもう浮上できません。もちろんこの緊縮財政を主張する政府機関からも、それなりの「小額の予算」は出てきますから、それでできる範囲で少しずつ取り組むことはできると思いますが、沈む速度はほとんど変わらないままです。そのような未来が来るのです。
 今はインフラの話をしましたが、これは言わば漁礁を鎮めるようなものです。海にコンクリート塊を鎮めると、そこに魚が寄ってきて釣り場や漁場ができますが、公共事業とはそういうものです。しかし、水溜りに立派な漁礁を置いても、元々魚がいないので釣り場にも漁場にもなりません。つまり、地の利のないところに漁礁を沈めてもその土地は良くなりませんが、どれだけ落ち込んでいると言っても関西はそれなりに人が住んでいますし、いろいろなところに近いという利点もあるので、明らかに地の利が良いと言えます。
 あるいは、宮崎の例を挙げると、宮崎はインフラの投資が放置されたままで、何もつくられていません。日豊線は今でも単線で、大分~宮崎間は電車で3時間半もかかります。鹿児島まで2時間です。大阪~京都間が電車で3時間もかかったら、私は大阪に滅多に来ません。大阪と神戸の間が2~3時間離れていたら、同じ都市圏になりません。したがって、宮崎は完全に陸の孤島です。新幹線どころか普通の鉄道もそのような状況で、高速道路も放置されたまま何も整備されていません。
 ところが、一つだけ便利なものがあります。それは空港です。空港から降りて街なかまでタクシーで15分ほどで行けます。多分、それにより、昔の新婚旅行は宮崎に行くことが多く、東京からも大阪からも飛行機で行ったものと思われます。ただし、飛行機の便は羽田空港が中心ですので、距離が離れているのに、宮崎は東京圏と言えます。物流は道路なので別ですが、ソフトなビジネス等では東京圏なのです。
 鳥取も同様です。距離的には大阪に近いので、新幹線があれば1時間もかからないくらいです。それが、今は3時間くらいかかるかもしれません。しかし、鳥取も空港が街なかにあって利便性が高いので、東京に行くのは非常に便利です。したがって、東京で朝10時から会議があっても、宮崎大学の先生も鳥取大学の先生も間に合います。それで、夕方の地元の会議に戻ることもできます。つまり、鳥取も宮崎も東京圏だということです。
 中央新幹線で行けるところも東京圏です。
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<西日本の首都の形成>
 これは馬鹿げた話です。これを放置したままで関西が再生するのは無理ですが、もはや、この状況を何とかしなければ、という発想自体がありません。「資金がない」と思い込んでいて、「いい知恵がないか」と言っても、それは無理な話です。硫黄島の戦いが知恵だけで勝てるはずがないのと同じです。栗林中将がいくら頑張っても、全滅を遅らせることしかできません。火薬も弾薬も物量が違うのですから、勝つことなど無理なのです。知恵でいくら頑張っても、物事には無理というものがあります。
 したがって、先に述べた20兆円の投資がなければ再生は無理です。諦めるしかありません。諦めたくなければ、20兆円をどうすれば出すことができるか、関西は本気で考えなければなりません。たくさんの人がいますので、皆が必至に考えれば20兆円くらい出てくるはずです。当然ながら、日銀や財務省と相談したり、もちろん国土交通省や政治家も頼りですが、関西が一丸となって20兆円の投資を考えればよいのです。それもしないのであれば、関西の再生など言うことはできないと思います。本気で再生したかったら、そのくらいの気合いで取り組まなければ無理だという話です。
 要するに、東側がすべて「東京のもの」のようになってしまっていますが、少なくとも、大阪は西日本の「首都」になるべきです。
 そのためには、例えば四国に新幹線を通します。そうすると四国は関西圏の一員になります。今は飛行機で東京圏に取り込まれてしまっていますが、新幹線ができれば、いわば、西軍の石田三成側陣営に入ることとなるわけです。言うならば「400年振りに戦って勝ちましょう」という話です。
 四国の新幹線に関しては、かつて第二国土軸という構想がありました。これは田中角栄の「列島改造論」に書かれていますが、2~3兆円で整備できます。それが通ると、完全に広域の関西圏の一員になります。当然ながら、相互直通にします。つまり、きちんと投資ができれば、関西が一体になり、かつ、発展していくということです。
 それから、大阪を日本海側ともつながるようにします。ただし、日本海側の新幹線はビジネスとして成立しないので、複線化して時間距離を短くします。伯備線をミニ新幹線にするくらいは1兆円もかからないと思います。そうすると、山陽側の大きな都市の活力が山陰側に流れていくことにもなりますし、首都大阪の構想が近くなります。実際に、東京からは仙台にも上越の方にも長野にも新幹線で行けるので、新幹線で周辺都市からすべて掻き集めることができるようになっています。
 しかし、関西はそういう状況になっていません。京都から車で少しの距離にある敦賀まで、北陸新幹線というかたちで東京からの触手を伸ばされて、そこで止められているのです。いわば西側の土地を東京に奪われているわけですから、これほど馬鹿にされて関西の人が怒らないのはおかしいと思います。
 ここまで馬鹿にされても黙っているから、関西は浮上できないのです。
 いじめられそうになっている子が、戦う気を無くした途端に、本当の虐められっ子になってしまうようなものです。負け犬の気質が染みついてしまったら、永遠に勝てるはずがありません。「勝とう」という気があるなら、立ち上がらなければなりません。これは喧嘩と一緒です。
 しかし、関西を含めた東京以外の全てがダメになったとするならば、それは、東京に偏重した投資を続けてきたことの当然の帰結です。
 一方にばかり投資をして良くなった代わりに、例えば、日本海側は投資が少なくなって、日本海側がダメになったのです。そして、今や、六本木ヒルズやTX(つくばエクスプレス)や新幹線やリニア等、首都圏にばかり投資をすることになってしまっています。それ以外の地域に対しては、投資が少ないのですから、投資の多い方が勝つのは当然のことです。
 例えば、子どもが5人生まれたとして、体重が3,200g、3,100g、3,000g、2,900g、2,800gとすると、100gずつ違うだけでほとんど同じです。ところが、親が「お金がないので5人育てるのは大変だ」という理由で、体重の多い方から3人だけに良い服を着せたり、良いものを食べさせたり、良い教育を受けさせたりして、小さい2人に何も投資をしなかったらどうなるでしょうか。10年後、投資をされなかった2人は痩せていて、知識もありません。元々は同じ遺伝子を持つ5人なのに、たまたま100gの差があっただけで、大きい方はぬくぬくと育ち、頭も良くなります。そうなると、親は、大きい方の子どもには「立派になった」と言い、小さい子どもには「お前は貧弱だから、お前にお金をやっても仕方がない」と言うのです。
 それが今の日本です。
 このような歴史観を持てば、明治以降の日本政府の取り組みは許してはならないと思われるはずです。
 にも関わらずなぜ、それを皆が許しているかというと、皆がそれを気が付いていないからです。先の比喩で言えば、小さな子どもは教育を受けていないので、それが当たり前だと思っているのです。
 そうではなくて、途中で気づいたら「これは不公平だ」と言って親と戦うべきです。
 戦う気がなければ再生できないのです。
 戦うか、戦わないかということであり、勝つ方法はあるのです。
 例えば、子どもたちでも、隣の人に告げるとか、学校の先生に言いつけるとか、いろいろな戦い方があります。そうすれば、痩せ細った子どもでも何とかなるかもしれません。
 現実は、そういう酷い話であり、その証拠に多くの都市が衰退してしまいました。残念ながら、今の時点での経済の成長は、公共事業をするか、しないかで決まります。公共事業が十分に実施されている状況においてはそうではありませんが、今のように、圧倒的に公共投資が少なくなっている状況下では、公共事業を行うか、行わないかがすべての鍵です。それができなければ、浮上できません。
 公共事業を行わない限り、フロー効果の点においても、ストック効果の点においても、関西が浮上することはありません。同様に、日本も浮上することはありません。一般に、ストック効果の議論をする人はストック効果の話ばかりしますし、経済学者等、フロー効果の議論ばかりする人はフロー効果の話ばかりします。しかし、これは両方とも必要なのです。
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●関西再生の障壁
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<20兆円の投資の意味>
 事業効果としては、前述のように、関西が首都になるような投資をしなければならないということですが、そのためには関西、大阪を中心にいろいろなところを新幹線でつなぎ、そして、大阪の空港をもっと便利にするためにアクセスを高めればよいだけです。これは不可能ではなくて、資金さえあればできる話です。それもわずか20兆円です。
 中央防災会議のトップで京大の防災研の大家である河田先生が計算された、想定される一番大きな津波が来て、大阪が水没すると、再生するのに300兆円くらいかかってしまいます。それに比べれば20兆円くらい安いものです。今、ギリシャが問題になっていますが、ギリシャのGDPは大阪府にも満たないくらいです。そのくらい関西は大きいのです。「関西はダメになった」と言われても、それは昔に比べてダメになったというだけの話で、実はまだまだ体力がありますし、ギリシャに比べてもまだ強いのです。
 今好調とされている中国経済も2~3年以内には大変な状況になります。バブル、金利の問題、アメリカの動き、暴動の発生等、中国共産党は非常に難しい綱渡りをしているようなもので、あれだけ強大な権限を持ってしても御し切れないほどの難しい局面に中国政府は対面しています。それに比べると、我々は、確かに経済が低迷していますが、まだ、皆がスーツを着て、このような会議場を借りて会議を行っていますし、相対的にはマシだと言えます。
 ただ、このリソースを使えばもっと強大になれます。本当は、日本は上手くするとアメリカくらいの経済力を持つことができるのです。したがって、上手くやればよいのです。
 いずれにしても、関西はそのくらい大きなものなので、20兆円くらいは「端した金」と言えるものです。そして、それがあれば先程からお話していることが全部実現できて、関西が中心となって西日本が一つの国になるくらいの勢いが生まれるのです。これは関西だけが栄えるのではなくて、重要なのは、西日本の地方のまちまで豊かになっていくということです。関西が豊かになるということは、西日本全体を強く支えるということなのです。
 西日本が東京と同じくらい強くなっていたら、仮に首都直下型の地震が発生して全部なくなってしまっても、西日本が代わりに首都機能を果たすことができます。長期的広域的な事を考えるなら、20兆円くらい「端した金」と言うこともできます。しかも、10年で整備すると、年間わずか2兆円です。京阪神で年間90兆円稼いでいるわけですから、2兆円など大した水準ではない、とも言えるでしょう。それも10年間だけです。そうすれば、関西は半永久的に西日本で君臨できると言っても過言ではないかもしれません。
 要するに、物事は川の流れのようなもの、あるいは、真空の世界でボールを投げると音もなく飛んでいくようなもので、少し方向を間違えるとずっと間違った方向に飛び続けてしまいますが、その時に、どこかで軌道修正をすれば正しい軌道に戻すことができます。修正する時は少し力をかける必要がありますが、その後はそのまま進み続けて、何もせずに良くなることがあるのです。それが世の摂理です。仏教の因果論とはそういうものです。それで、修正するには気合いが必要であり、それが金額で言うと20兆円だという話です。それを投資すれば、関西は本当に良くなると思います。
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<弱者を切り捨てる国の姿勢>
 しかし、今や金を出す側は、そういう感覚がゼロになっています。出す金を削るだけの話で、関西が浮こうが沈もうが知らないという姿勢です。
 何より、東日本が大変な事態になっていても放置しているのですから、私は信じられませんでしたし、それが十分に予期できなかった自分の未熟さに恥を感じました。
 私は3月23日に国会の予算委員会で、被災地が抱える二重ローン問題等への対策、あるいは漁協等に配るために、国債で20兆円を調達して投入する必要を主張しました。それは、震災が発生して10日後くらいのことでしたが、その時に「列島強靭化計画」を考えて計算した案を持って行ったわけです。
 そうしたところ、日本に私と意見の合う経済学の先生方は数少ないのですが、そのうちの1人が偶然にも同じように民主党に呼ばれていました。それで、私は経済論を前提としたインフラの話をして、彼は経済の話をしましたが、彼は30兆円必要だと主張しました。そして、帰りの新幹線で新聞に「予算委員会公聴会で30兆円の財政出動」と出ていたので、これで財政出動するものと思っていました。
 それが、どうしたことか、補正予算は4兆円、インフラ再生には1兆円という数字になっていました。私の妻や中学生の娘が1兆円と聞くと「大変な金額だ。これで皆が助かる」と思うかもしれませんが、ふざけた話だと思いました。計算式まで出して「25~47兆円の投資が必要だ」と提示したのですから、出せばよいのです。いくら国家観のないような政権でも、まさか被災地を見捨てることはないと思っていたので、これには驚愕しました。
 二次補正予算も1兆円という額でした。今回も三次補正で9兆円に対して震災復興と円高対策が入れられています。震災復興だけで9兆円なら、私の提示した20兆円には足りないものの、まだ少しは良くなったと考えられますが、円高対策も入っているとなると、今は円高が大変な状況なので、そちらに3兆円くらいは注ぎ込むことになると思います。そうなると、震災復興には5~6兆円しか使われません。
 これは酷い話です。完全に被災地を見捨てつつあると言えます。
 そもそも、今、TPPの加盟が話題に上っているからです。被災地の産業が何だったのかを政府は忘れたのでしょうか。今TPPに加盟したら、いくら補助金を入れても農業は潰されてしまいます。農業だけではありません。恐らく、本日出席されている皆さんの業界も相当に痛手を受けます。無傷で済む業界はありません。
 要するに、これは日本のマーケットを外国に明け渡すという話であり、アメリカの積年の望みなのです。日米構造協議の頃から、日本人にモノを売り付けて金を儲けたいと思っているアメリカ企業を後押ししたいと考えて、政府が20年来取り組んできたことの一環です。リーマンショックがあったからTPPを持ち出したわけであり、日本の市場を食いものにしようとしているだけとも言えるわけです。
 しかし、前原氏は、これを農業だけのような印象に操作をしてしまいました。農業だけがTPP反対で、他の産業はTPP賛成という形にしてしまったのです。しかしそれは全く違います。
 その問題もありますが、少なくともTPPに入ると農業は潰されてしまいます。関税がなくなって、大規模農業を展開しているアメリカなどから農産物が入ってくれば、東北の農業は潰れてしまうでしょう。つまり、TPPを進める政府は被災地を助けるつもりがないということであり、かつ、十分にお金を出さないということは、被災地なんてどうでもよいと考えていると言えるのではないかと思います。
 国交省は櫛の歯作戦やリエゾンをする等、国家観がありますが、官僚に国家観が必要なのは当たり前です。本来、官僚は意思を持ったパブリックサーバント(国家公共のために尽くす人)であって、テクノクラート(官僚組織の中でとにく何も目的を考えずに、ただただ粛々と上司の言う事を聞く人)ではないのです。要するに、国交省の中の旧内務省を出自に持つ人たちの中には「助けよう」という意識があるのですが、そういう助ける気がない人々が政府の中にもいるということです。
 ところが、今、日本人はそれに気づいていません。私は今月号の「WiLL」という雑誌に細かい数字を挙げて「復興予算23兆円の“不道徳”」と題して、どれだけ足りないか、どのようなロジックになっているかということを書きましたが、日本では私以外にそのように計算までして主張をしている人はいません。
 元々「経済」は「経世済民」であり、国を治めて民を救うのが「経済」です。そういう人物としてジョン・メイナード・ケインズ氏がいますが、彼は経済学者ではなく、元々は哲学者です。もちろん、経済学者の中にも友人の菊池英博氏のような立派な方もおられると思いますが、それ以外の方々の中に、どれだけ人を助けようと考えている人が居るのか定かではありません。本来なら、例えば経済学の先生方が「復興にはこれだけのお金が必要だ。出さなければ可哀そうだ」と言うべきだと、私は思います。
 そもそも大学の学者のことをスカラーと言いますが、これはラテン語で「暇人」という意味です。ビジネスマンは忙しいからビジネスマンですが、スカラーは暇人なので、大所高所から人が考えないようなことを長期的に考えて、変だと思うところに切り込まなければならないのです。しかし、日本中の学者でそういうことをしている方々は限られているのかもしれません。本当に腹立たしいことです。
 このように、今の日本政府は東北を助ける気が十分にあるとは思えない、と言っていい様に思えます。お金も出さないし、TPPで潰そうとしているよう状況になっているわけです。就任後すぐに辞任した松本大臣が宮城県知事に「港を集中するなら、話をまとめろ.そうでなければ助けない」と言う事を命令口調で発言しましたが(その後、それによって辞任に追い込まれましたが)、その言葉に、政府の認識が象徴されているのかもしれません。つまり、条件をクリアしなければ「助けない」ということを主張した訳ですから。そして、それに軌を一にするように、今の内閣も大きな財源を組んでいないのです。
 そしてその上、現政権は、あろうことか増税しようとしています。
 この様に────東北でさえ助ける気が十分にあるようには思いがたいわけですから、現在の政府としては、関西が疲弊していても「まだ食べられるではないか。浮上するのに20兆円かかるなど、とんでもない話だ」という考え方になってしまうに違いないでしょう。つまり、被災した東北ですら放置したままなのですから、今の流れでは、関西の人間に20兆円など出す様なことがあるとは到底考えられません。
 いずれにしても、財政については「理屈」は全く通らないのです。そもそも、昨年より多いか、少ないかというだけの話しか通らない傾向が強いのです.例えば公共事業費は、今年はまた10%削減されています。一昨年も20%近く削られて、昨年も10%削られています。昔は日本の公共事業予算が15兆円あったものが、今は5兆円程度にまで落ち込んでいます。残念極まりないですが、まるで笑い話の様な話だと思います。
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●経済成長の経緯から、関西の再生を考える
 このように、今、政府は資金を出さないわけですが、その話は横に置いて、どのように再生すればよいかということが問題ですので、20兆円あれば関西は救われるというフロー効果について、もう少し詳しくお話したいと思います。
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<日本経済だけが成長しないという現実>
 名目GDPの推移をグラフ化すると、中国だけではなく、欧米もその他の国々も世界中のGDPが伸びていることがわかります。つまり、元気がよいとか悪いとかに関係なく、経済というものは成長するものなのです。昔は大卒の初任給が12,000円だったというような話がありますが、それが段々と成長していくわけです。人間は放っておいても段々と賢くなっていくもので、同じことを続けていると上手くなって、良いものをつくるようになります。それが経済成長というもので、良いものができると、昔のものよりも値段が高くなります。その結果、段々と豊かになって、最初はカローラに乗っていたけれども、そのうちにクラウンに乗るようになるのです。それが経済成長です。
 そのように、経済は伸びるものであり、伸びないのは何かがおかしいのですが、世界を見ると日本だけが伸びていません。日本が普通に伸びていたら、今や日本のGDPは少なくとも700~800兆円になっているはずです。ところがそうなっていないのです。
 今、述べたようなことを理解されている方は、国民の中にほとんどいないと思います。「GDPは500兆円くらいのもの」という感じになってしまっているのではないかと思います。これが“虐められっ子”の論理です。虐められっ子が這い上がるには、自分がいかに不当に虐められているかということを理解するところから始めなければなりません。そうしなければ浮上できません。
 なぜ、ダメになったのかという理由について、皆さんがすぐに思いつくのはバブル崩壊ではないかと思います。「バブルが崩壊したから日本はダメになった」というのは、一部は正しい理解ですが、それはごく一部の要因でしかありません。
 例えば、リーマンショック後、中国もアメリカも打撃を受けましたが、実際にV字回復しています。あるいは、1929年の世界大恐慌では、アメリカのGDPは約半分になり、大変な不況になって、失業率も30数%以上だったように思います。今のギリシャも緊縮財政でこれからそのようになるのではないかと思いますが、アメリカはそのような大変な状況から、戦争で日本を叩きのめすくらいにまで強くなっていったのです。これはニューディール政策によるもので、アメリカのデフレは4~5年で元に戻りました。中国も元に戻りました。
 したがって、バブルの崩壊は理由の一つではあるかもしれませんが、問題は回復できていないというところです。あの時の債務はすべて返しています。しかも、バブルの崩壊は1991年であり、日本が経済成長できなくなったのは90年代半ばからです。
 つまり、バブル崩壊は直接の原因ではなく、90年代半ばに何かが起きた、それがすべての原因です。仮に日本のGDPが1,000兆円くらいになっていたら、「関西の再生」などと言わなくても、それなりに関西も豊かになっていると思います。
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<日本経済が成長しない本当の理由>
 問題は、一体何があったのかということですが、まず、この状況すら今の日本では理解されていません。日経新聞にもほとんど書かれていませんし、多くの経済学者もほとんど言及していません。理解されていないので、何があったかということについての問いすら、日本人は考えていないようにすら思われます。
 そう考えると、皆さんは、「人口減少、少子高齢化で日本はダメになっている」と思われているかもしれませんが、それは間違いです。人口減少で経済成長できなければ、ドイツもロシアも経済成長していません。何度も言うように、人口が増えても減っても、経済は成長する時は成長するし、ダメになる時はダメになるのです。人口減少は一部の理由にはなりますが、少子高齢化も関係がありません。
 あるいは「中国や韓国やインド等のこれから伸びるところは伸びるけれども、日本は成熟化社会を迎えて、高度成長期のような元気がなくなっているので、我々のような先進国は伸びない」と考えられているかもしれませんが、欧米は伸びています。
 したがって、経済の問題について、日本人の多くが理解できていないと言えます。
 ただ、もし、皆さんも同じように勘違いされていたとしたら、それは皆さんに問題があるのではなくて、日本の学者が問題なのです。専門のコメンテータが、日本は少子高齢化だから経済成長できない、ということばかり言っているわけですから、正しい事を一般の方々が理解できないのも当然だと言うことができるでしょう。
 極論するなら、経済成長できるか、できないかは、少子高齢化してるかしてないかとか、先進国かどうかという様なことが原因ではなく、「日本か、日本でないか」ということだけが原因だ、といっていいかもしれません。先進国だからダメなのではなく、少子高齢化だからダメなのでもありません。今の日本がダメな事ばかりしてきたからダメなのです。
 この問題についてきちんと理解しているのは、菊池英博先生等、一部の方々だけの様に思います。
 いずれにしても、日本経済が成長しない原因を理解するためには、デフレを理解しなければなりません。
 そもそもデフレとは、需要と供給のギャップによって起こりるものです。
 昔、吉野家の牛丼は380円でしたが、その価格で皆が買い、儲けもあり、マーケットが成立していました。ところが、松屋やすき家などの供給側が増えたためにデフレギャップが生まれました。供給が増えると、客を獲得するために値段を下げなければなりません。1店が下げると、釣られるように他の店も下げていきます。建設業界のダンピングと全く同じ状況です。発注量がなくて、会社ばかり多くてギャップがあるので、単価が低くならざるを得ないということです。
 このような仕組みで価格が低下し、低価格になると、吉野家の社員や建設業の社員の給料が下がります。同時に、法人の収入も減ります。給料が減ると、皆がモノを買わなくなります。収入が減った企業は投資をしなくなり、経費を節減します。そうすると、全体のマーケットの需要がもっと減ってしまいます。ギャップがあれば値段が下がり、収益が下がるので、結局はまた需要が下がるのです。
 このように、ギャップがあるだけで、ギャップがさらに広がってしまうのがデフレスパイラルで、ますます値段が下がるわけです。そうしているうちに、企業は存続できなくなって倒産してしまいます。それが波及して、祇園や新地の店も潰れてしまいます。そして、供給力が減少し、需要も減少し、供給も需要も小さくなって経済が小さくなってしまう、その現象がこの時の日本で起こったのです。
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<デフレギャップの発生と解消の仕組み>
 バブルが崩壊した時、それまで「クラウン」だの「ドンペリ」だのを購入していたあぶく銭が焦げ付いて、皆が大変な借金を背負ってしまいました。そのため、人々は高いものを買わなくなり、日本人は皆、消費を控えるようになって需要が減りました。ところが、それまで供給も需要も大きく伸びていて、供給側はバブルの消費性向に合わせていたのでさらに伸びていましたが、突然、バブルが崩壊して需要が減ったために、デフレギャップが生じました。それが91年に起きたことです。
 ギャップの幅がどのくらいか、明確にはわかりません。計算の仕方によりますが、内閣府のモデルでは30兆円と言われています。本当はもっとあると思われますし、計算によっては100兆円以上ではないかとも言われています。
 ところが、デフレギャップがあったにも関わらず、91~95年のGDPは伸びています。不思議な現象ですが、これは政府がデフレギャップの問題を捉えて、余ったモノを政府が買い上げるという方法をとったためです。これが財政出動であり、公共事業です。だからこそ、GDPは伸びたのです。
 つまり、デフレギャップが発生した場合は、デフレを止めるために“下駄”を履かせればよいわけです。マーケットの中には民間と政府しかないので、民間がモノを買わなくなったら、政府が買わなければ仕方がありません。それによってデフレギャップがなくなり、商品価格の低下が抑制されます。価格低下が抑制されると、皆さんの所得が守られます。そして、所得が守られると、皆がモノを買うようになります。デフレギャップがないまま、皆さんが普通にお金を使えば経済は成長します。需給バランスが取れていれば、放っておいても経済は成長するのです。そして、翌年には民間の需要がまた伸びますので、今度は履かせる“下駄”が少なくて済むのです。
 そのようにして、ギャップ部分の投資をしばらくしていれば、デフレは止まります。これを理論化したのがケインズです。彼はこれを1933年の「一般理論」という本の中で論理化しました。私はこのケインズについて、「プラグマティズム」という哲学の本に、普通、プラグマティストとして紹介されることのないケインズが、いかにプラグマティストであったかということを書きましたが、そのケインズが需要や供給の概念を自ら作り、GDPという概念を作り上げました。
 その正当な学問を引き継いでいるのが菊池英博先生や宍戸駿太郎先生です。しかし、経済学は学会の中で発展していくので、ニュー・ケインジアンが出てきてIS-LM分析*等をしているうちに「ケインズは死んだ」と言われ、「ケインズ」と言うだけで白い目で見られるようになっていたようです。
 *国民所得(国民全体が得る所得の総額)の均衡した状態を分析する手法
 要するに、デフレになると借金ばかりで資金がなくなり、民間がモノを買うことができなくなるので、政府が買うことによってギャップを解消するわけです。ところが、電通などはすぐに「消費者マインドが冷え込んで皆がモノを買わないからデフレが起こるので、消費者マインドを掻き立てるような商品を開発すればよい」というようなことを言います。そういうことをしたら、また供給が増えてデフレになってしまいます。
 デフレの時は、皆、投資をしません。だからこそ、公共事業が必要であり、日本は、その公共事業を96年まで行っていたわけです。それは、ケインズの理論を知っていたからであり、もちろん、政治をしている人間は誰でも知っていることです。
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<日本の経済成長を促進した政策>
 これができた背景には、政治主導で「緊縮財政を求める勢力」に対して抑えが効いたということが挙げられます。同時に、経済企画庁という強力な組織も当時はありました。ところが、それが90年代の行政改革で解体されたのです。経済企画庁は経済の企画をしますが、会社でいうと企画部です。会社というのは企画部と財務部が喧嘩をするもので、財務部が強くなるとその会社は凋落し、企画部が強くなり過ぎても赤字になってしまいます。したがって、バランスがとれて初めてその会社は良くなっていきます。昔の日本の経済も、そのバランスがとれていたので高度成長を遂げることができたのです。
 要するに、当時は経済企画庁があり、それが国土計画を立てて、私が主張している「20兆円を出す」ということも法的に決めていました。私は冒頭で「関西は全くダメだ」と言いながら、「再生は簡単だ」という話をしましたが、実際に、経済を成長させることは簡単です。国土計画によって、大事なところにあるべき国土ビジョンを立てて、巨大な公共事業、国土政策を実行すればよいのです。そうしてきたから経済は伸びたのです。
 今では、日本のGDPはアメリカの1/3程度になってしまいましたが、90年代半ばには7割ほどにまで迫り、もう少しでアメリカを追い越すことができるという勢いでした。この頃にビジネスマンだった人は覚えていると思いますが、90年代前半は何をしても日本は勝てるような印象がありました。日本人は、政治は優秀ではなくても、ビジネスは優秀なので、どのマーケットでも世界一になるような勢いでした。
 私は過去に1年間、スウェーデンで心理学科に留学しましたが、最初は心理学などわからないまま、一生懸命に勉強していたら、半年ほどで現地の学生に追い着き、最後の1年間は、私が、スウェーデン人が行うプロジェクトをアドバイスするまでになりました。彼らの良いところは蓄積を崩さないところですが、全く働かないので、ビジネスの競争で我々が彼らに負ける要素は見当たりません。ただ、彼らは後ろに政府を立てたりするので、会社で取り組む日本が負けるのですが、会社vs.会社でフェアな競争をすれば、日本人は絶対に負けません。その証拠がGDPの伸びに出ています。
 さらに言えば、1945年時点では、日本のGDPはアメリカの1/100程度になっていました。原爆を投下され、大阪平野も焼け野原にされ、優秀な人材は死んでしまい、壊滅状態になっていたにも関わらず、わずか40年でアメリカに追いつこうというところまで来たわけです。当時のビジネスマンは「このままでは世界中を支配してしまうのではないか」とまことしやかに議論していたほどです。
 ところが、バブルが崩壊し、やがて経済が下降していくのですが、その原因はバブル崩壊ではなく、90年代半ばまではきちんと公共事業を行っていたのでGDPは伸びていました。それは政府の中に国土計画を行う勢力が大きく存在したからであり、しかも永田町だけではなく、霞ヶ関にもありました。国土庁には下河辺淳氏という凄い人がいて、彼がいろいろなものを作り、その後ろ盾に田中角栄という国民全員を動員できるような、民主主義で選ばれたヒーローがいたわけです。
 田中角栄氏は、著書の「列島改造論」の思想の下に票を集め、国民全体を結集して国土計画を作りました。そこで、彼は明言していますが、彼の頭の中には、均衡ある国土の発展として、太平洋ベルト地帯に投資するだけではなく、日本海側にも新幹線を引き、高速道路を引き、第二国土軸を引くという地図が描かれていたのです。これは昭和47年に書かれた「列島改造論」の本に記されていますが、田中角栄氏は、先の例で言うなら「100g違いの小さな2人の子が見捨てられるのは可哀そうだ」と思っていたわけであり、だからこそ、そこにも投資をして日本全体を豊かにしようと思っていたのです。その思いの下に国土庁があり、経済企画庁があり、そこに自民党という大きな政権があって、「緊縮財政派の勢力」と互角以上に戦って財政出動ができていたのです。
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<日本の経済成長を止めた政策>
 ところが、橋本龍太郎氏によって、それは縮小されていきます。その前に細川氏が出てポピュリズムに流れますが、それは田中角栄氏のような強引さが嫌がられてきたためか、その強引なパターンで皆が豊かになっていたということもわからずに、後ろ足で砂をかけるように国土計画的な舞台を足蹴にしていったのです。
 それで、経済企画庁が解体され、国土計画がなくなり、グランドビジョンや形成計画も骨抜きにされて、弱小な計画しかないようになっていったわけです。
 そのきっかけが97年です。
 この年、橋本龍太郎氏が経済企画庁を解体すると同時に、公共事業を削減しました。いわゆるシーリングで、15兆円の投資が47%になり、今はもっと削られています。つまり、下駄を履かせなければならない時に下駄を外したのですから、デフレにならないわけがありません。
 このように、元々、日本政府は国土計画で中身をしっかりと作って進めようとしていたわけであり、その中には、私が述べたような内容が半分以上は入っていました。当時は空港のリニアの構想はありませんでしたが、その頃に思い描いていたような話は入っていましたので、その国土計画には20兆円の投資がほとんど入っていました。今、新しい国土計画を作れば、前述した20兆円は必ず入ります。
 ところが、「デフレギャップを埋めるための下駄」を外してしまったわけですから、デフレギャップが再び生じて、経済が凋落してしまうのは当然のことでした。
 しかも、愚かなことに、97年には増税も実施しています。増税は、例えば、国民が100兆円消費していたとしたら、2兆円を召し上げることであり、それまで民間に回っていた2兆円が政府に取られてしまうので、皆さんの所得が2%下がることになって、当然、需要も2%下がります。つまり、下駄を外すと同時に、需要まで削ったのです。
 その上、自由化や構造改革まで行ってしまい、供給を増やすことになりました。
 わかりやすい例が大阪のタクシーマーケットです。橋本氏の行政改革と小泉内閣が完成させた構造改革によって自由化し、タクシーの数が増えてしまった結果、今、大阪のタクシードライバーの年収は200万円を切って170万円くらいになっています。一番酷いのは那覇のタクシードライバーで、彼らの年収は90万円を下回っています。これは、自由化によって供給が増えたために起こった現象です。昔は政府が受給バランスを見ながら供給を押さえていましたが、自由化でバランスが崩れてしまったのです。
 このように、橋本内閣とそれを引き継いだ小泉内閣が実行した三つの施策によって、日本は完全にダメになってしまいました。デフレギャップを埋めるための需要に対する「下駄」を外して、増税によって需要を削り、構造改革で供給を伸ばしたのですから、全く経済については素人同然の取り組み方と言えます。全く信じられないことです。
 なぜ、そのようなことをしたのかというと、供給を伸ばしたのは自由競争を奨励する勢力の企みがあり、需要を削ったのは緊縮財政派の企みがあり、彼等に、富国を志す「内務省」的勢力が負けたということができるでしょう。
 「内務省」というのは、明治政府の時につくられた国交省の前身の組織ですが、そこに国土計画を実行しようとする遺伝子があったわけですが、その遺伝子が、「負けて」しまったわけです。
 会社で言えば、企画部と財務部の喧嘩で企画部が負けてしまい、財務部の言いなりになって会社がダメになっているという状況です。
 その結果、GDPが伸びなくなりました。
 では、他の国のGDPがなぜ伸びているかというと、それは95年までの日本と同じように、デフレギャップが起きた時は大きな財政出動をすることが常識になっているからです。本日は日銀の話はできませんでしたが、財政出動をしながら金融緩和も行うのです。この二つをセットで行うのが常識なのです。
 リーマンショック後、アメリカも大きな財政出動を行いました。2008年だけで約50兆円出しており、全部合わせると100兆円ほどの財政出動をしています。さらに、金融緩和として、マネタリーベースが2倍になるほどの施策を実行しています。言うならば、ドルを刷りまくって配ったわけです。それと同時にニューディール政策を行い、それによってアメリカの経済は持ち堪えていたわけです。ところが、ティーパーティーという日本と同じように財政出動を否定する動きが出てきたために、今、アメリカも難しい状況になりつつあります。いずれにしても、公共事業は常識なのです。
 したがって、仮に、1997年から数年間、もう4~5年先まで15兆円程度の財政出動をしていれば、方向が変わってGDPが伸びた可能性もあったのです。本当に悔しいことです。“捕らぬ狸の皮算用”ですが、計算では4,000兆円の損失になります。4,000兆円あれば、20兆円の要求などいくらでも通ったと思います。これだけ伸びていたかもしれないのです。
 しかしながら、こうした論理を、私のように声高に叫ぶ人はほとんどいなくなりました。菊池先生や宍戸駿太郎先生、後は、私の友人の経済評論家の三橋貴明氏、それから、経産省から現在京大の准教授になった中野剛志氏もTPP反対論を唱えていますが、そういう一部の人々として挙げることができます。
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<関西を浮上させる「五方よし」の精神>
 これと同じことは関西にも言えます。
 今、このデフレを関西の中で脱却するような投資をすれば、何度も断言しているように、関西は必ず浮上します。フロー効果だけでも相当に大きくなると思います。いわんや地の利を活かした地域計画を立てて、大阪が西日本全体の中心都市に位置づけるようなことができれば、必ず浮上します。
 しかし、大阪や関西が、自分のことばかり言っていると縮小してしまいます。
 なぜなら、「浮上する者」は「利他的」に振る舞った時にのみ、浮上する切っ掛けを得ることができるからです。
 言うならば、それが大人物の鉄則です。
 自分のことだけを考えている者は浮上できません。
 だからこそ、近江商人は「三方よし」と言っているのです。それは、商売は「売り手よし」で売り手が儲からなければならないし、「買い手よし」で買う人に喜んでもらわなければならないし、さらに「世間よし」で社会全体がその商売を通じて良くならなければならないということを骨の髄まで理解していたからです。それが日本人のスピリッツだったのです。
 したがって、関西は「関西よし、西日本よし、日本よし、アジアよし、世界よし」というような「五方よし」のスピリッツで取り組めば、簡単に浮上します。自分のことばかり考えている間は浮上できないということです。
 以上、絶望的な状況だという話から始めましたが、浮上するのは簡単だという話で終わりたいと思います。
以上
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