一般財団法人大阪湾ベイエリア開発推進機構
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広報誌『O-BAY』
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「大阪湾ベイエリアの戦略的な将来像を探る」連続講演会 第5回
当財団では、大阪湾ベイエリアの産業集積動向や戦略などについて、多様な講師をお招きする連続講演会を開催しております。第5回の講演内容について紹介致します。
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■テーマ: 東日本大震災による日本経済及び関西経済への影響
■講 師: 株式会社日本政策投資銀行 関西支店 企画調査課長 齊藤 成人 氏
■日 時: 平成23年8月23日(金)14時05分~15時35分
■場 所: 大阪大学中之島センター 7階 セミナー室
■参加人数: 59名
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講演の様子
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●はじめに
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 日本政策投資銀行の齊藤です。どうぞよろしくお願い致します。
 当行は1999年に設立された総合政策金融機関ですが、2008年に株式会社化し、現在は日本国政府が株式の100%を保有する株式会社となっております。
 当行の特徴は、各地域に設置された支店に企画調査課という調査セクションが存在しているということです。私が現在所属している関西支店は滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の関西2府4県を管轄しております。企画調査課では、当該地域にかかる調査レポートや経済動向の把握、提言等を積極的に行っており、いわゆるシンクタンク機能を有しています。
 本日は、「東日本大震災による日本経済及び関西経済への影響」と題してお話させていただきます。
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●東日本大震災の被害総額
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<東日本大震災資本ストックの被害金額推計>
 最初に、今回の東日本大震災の被害額ですが、いったいいくらぐらいなのでしょうか。日本政府は16兆~25兆円という大まかな試算を出しています。
 当行では、震災発生直後に東北復興支援室を設置し、そこで震災復興のための金融支援や調査等、地域のお手伝いをしております。同室が試算した数字では、岩手、宮城、福島、茨城の4県で合計が16兆3,730億円となっております。
 この結果を見ると、一番被害率が高かったのが岩手県の沿岸部で、推計で約7兆円の資本ストックがあったのですが、そのうちの半分、3.5兆円が今回の地震の被害にあったと推定されます。宮城県は、全体で11.9%の被害率、54兆円のストックのうち6.4兆円の被害があったと試算されていますが、これを沿岸部と内陸部に分けてみてみますと、内陸の被害額が5%程度なのに対して沿岸部は21.1%と、同じ宮城県とはいっても、内陸と沿岸で相当の差があることがわかります。
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<関西経済への影響試算>
 では、関西経済への影響はどうだったのでしょうか。関西社会経済研究所の推計によると、今回の地震で生産額ベースで約5,000億円の損失が関西地域において発生しております。試算上、日本全体の地震による減失所得は8.9兆円、全体の生産額ベースでは11兆円の被害があったとしておりますので、ちょうど関西は全体被害額のうちの0.3%程度という状況です。
 この試算がでたのは4月でありますので、電力制約や円高はあまり想定されておりません。皆様も、3月や4月頃の関西の空気を思い出していただければわかるのですが、比較的、産業等が関西にシフトしてくるのではないだろうか、という楽観的な記事を新聞・雑誌等で目にされたと思います。
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●東日本大震災による関西経済への影響
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(1)人口転入超過数
 では、実際にどのような影響があったのか、関西における経済指標をみてみましょう。まず人口ですが、引越や転勤による大阪の社会増減は、3月、4月が増えています。もともと3月は転勤や引越しのシーズンということもあるのですが、実は昨年の同じ時期と比べて、3、4月で計5,000人くらい増えています。3月に地震があったので、異動のシーズンを遅らせた企業が多かったせいかとも考えたのですが5、6月の数字をみても昨年度よりも大阪に来る人が増えています。
 どこから大阪に転入して来たのか移動前の住所を見ますと、一番多いのは同じ関西からですが、関東から来る人が昨年度は23%程度だったのが、今年は27%と増えています。
 どうやら数字上では人が来ているようです。そうなりますと当然何か実需があったのではないかと考えます。

(2)東日本大震災関連倒産
 その前に今回の震災によって関西でどのくらいの企業が倒産したのでしょうか。震災の影響で倒産した関西の企業は7月1日時点で14社です。負債総額は68億円で、1社あたり5億円の負債となりますと、中小企業が倒産していると考えられます。
 大企業の倒産が少ないのは、リーマンショックの経験から、比較的現預金を厚めに持っていたため、震災時にあっても資金繰りに対応できたのではないかと推察できます。

(3)鉱工業生産指数
 鉱工業生産指数の動きをみますと、3月以降、全国の生産指数は97.9、82.7、84.0、88.8と大きく落ち込んでいますが、関西は3月に前年比増となり、その後も安定した数字で推移しています。

(4)小売販売額
 では、ものが売れたのでしょうか。小売販売額を見ますと、全国では3月以降はものが売れなくなって、前年同月比は、▲15.4、▲2.4、▲2.4、▲0.3と、震災の影響が出ています。一方、大阪はと言いますと、3月こそ前年同月比▲3.2となっていますが、4月以降は4.7、8.3、7.4と増えています。これは大阪駅前に伊勢丹とLUCUAが開業した影響ですが、それでも震災後は前年同月比プラスなのです。

(5)関西地域の2011年度設備投資計画への影響
 設備投資はどうでしょうか。5月時点で大阪商工会議所が会員企業に対して行ったアンケートによりますと、設備投資計画については約半分の企業が「変更なし」という回答でした。この時点では、関西では電力制約の話が出ておらず、地震の影響は大阪にはあまりないと考え、企業も設備投資も例年通り行おうとしていたようです。

(6)貿易(輸出額・輸入額)
 次に貿易はどうたったのでしょうか。指標をみますと、関西の輸入は前年と比べて増加しており、順調に推移しています。輸出についても少し増えています。
 これは、地震により東日本の港湾施設が機能停止したために、関西の港が機能を代替したためですが、実際にヒアリングをしてみても、倉庫業を営んでいる企業には問い合わせが殺到し、実際に稼働率が上昇したようです。

(7)航空貨物取扱量
 航空貨物取扱量を見ても同じように、輸入については増えており、関西国際空港が被災地の代替機能を担ったと推測されます。

(8)航空旅客数
 ただし、航空旅客数を見ますと、荷物は増えているのですが、旅客数は減っています。これは、訪日外国客数が大幅に減ったためです。関西国際空港の旅客数は、5月には若干の回復を見せてはいますが、4月は前年同期比▲25%、特に外国人が▲61%と大幅に減少しています。

(9)ホテル客室稼働率
 観光は地域が外貨を稼ぐ手段として非常に大切な手段で、旅行客がこなくなるとなれば、地域経済にとっては深刻な危機となります。わかりやすく数字にあらわれるのが、ホテルの客室稼働率ですね。
 関西のホテルはどうだったのかみてみますと、4月以降のホテル稼働率は急激に低下しています。関西のホテルは、中国、韓国からの旅行客が稼働率に影響を与えますので、彼らが来なくなると、ビジネス出張需要で底支えされている東京などと異なり、直接的に悪影響を受けてしまうのです。
 観光庁が「ビジット・ジャパン」と称し日本国への観光客数を伸ばそうとしていますが、このままだと厳しい状況にならざるをえません。
 関西に訪れる外国人客数のうち、中国人・韓国人の占める割合は約45%です。ところが、震災後、ぱったりと彼らがやってこなくなったため、先述の関空利用者数やホテル稼働率の数字が悪化したのです。

(10)オフィス空室率
 先ほど倉庫の稼働率が上昇したお話はしましたが、オフィスはどうだったのでしょうか。
 実はオフィスも問い合わせは多かったのです。しかし、入居に結びついてはいません。オフィス稼働率をみても、震災前後で横這いです。

(11)関西への影響
 以上より、今回の大震災による関西への影響を整理してみますと、企業の倒産では、関西において直接被害による倒産件数は全国の1割程度、鉱工業生産指数もほとんど影響がありません。小売販売額も同様です。オフィスも想定よりも空室率の改善はみられませんでした。
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●阪神・淡路大震災時の状況
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 では、阪神・淡路大震災の時はどうだったのでしょうか?
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<阪神・淡路大震災と東日本大震災の比較>
 阪神・淡路大震災と東日本大震災を比較しますと、阪神・淡路大震災の被害額は9.6兆円ですが、東日本大震災は16.9兆円と試算されており、今回の震災は阪神・淡路大震災の約2倍の被害規模となっております。
 岩手、宮城、福島3県の合計の域内総生産額はちょうど阪神・淡路大震災前の兵庫県と同じです。
 業種別の付加価値額をみますと、阪神・淡路大震災前の兵庫県は、一次金属の鉄鋼が全国の8.7%、一般機械が9.8%と、シェアが高かったのですが、震災後は一次金属・鉄鋼が7.4%、一般機械が7.1%と低下しています。これは震災後10年以上経っても戻っていません。
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<阪神・淡路大震災の経済への影響>
 阪神・淡路大震災の日本経済への影響はどうだったのでしょうか。
 実質GDP(国内総生産)を見ても、目立った震災のマイナス影響は見られず、むしろ、復興のための公共投資によりGDPは増加しています。
 兵庫県のGRP(国民総生産)は、1995年、96年の2年間は復興事業によってプラスとなっています。そう考えますと、今回の震災により、短期的にはGDPも復興投資によりプラスになるのではないか、という見方があります。復興のために住宅をつくったり、ものを買ったりするからですね。
 しかし、中長期的にみればどうでしょう。兵庫県は、震災後の2年間はGRPが増えましたが、その後の伸び率をみますと全国と比べ低く、差が拡大傾向にあります。そう考えますと、日本全体においても長期的にみれば、経済へのダメージがじわじわと発現していくのではないのでしょうか。
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<阪神・淡路大震災のインパクト>
(1)経済力
 兵庫県内のGRPについて業種別の付加価値額をみてみますと、震災直後の2年間は復興投資のため建設業が伸びたのですが、その後は、低迷しています。

(2)人口
 人口は、震災後の社会減は人口の2%程度にもなりました。ちょうど学校の1クラスに1人が転校していったことになります。この後、兵庫県は出生等自然増減により人口が持ち直していったのですが、社会増減をみてみますと、震災後に回復したのは43%、つまり、100人が転出したら、再び神戸に戻って来たのは43人という厳しい結果となっています。

(3)設備投資
 設備投資ですが、震災直後の95年、96年の2年間は復興のため伸び率は大きくプラスとなっていますが、GRP同様、その後は全国水準をずっと下回るようになっています。
 工場立地件数についても、震災直後の95年、96年は再建で伸びましたが、その後は下がってしまいました。
 同じように、公共投資も、95年、96年は伸びましたが、その後はずっと低調です。
 新設住宅着工戸数も同じですね。

(4)製造業
 次に製造業をみてみます。震災直後の経済指標はすべて悪化しています。先程、2年間は伸びますよと言いましたが、あれは公共投資や設備投資など、建物や工場自体を建設する業界のことで、その中でモノをつくる業界は、震災以降は厳しい状況となっているのです。

(5)観光
 兵庫県の観光入込客数についてですが、震災直後の95年は前年比▲26.8%となっています。前述のように、観光は手っ取り早く外貨を稼ぐためには有効な手段であり、観光客が来ないと、神戸も外貨を稼げないことになります。復興投資はあるけれども、製造業が厳しい状況に陥る中、外貨が稼げなくなるとすれば、神戸は大変厳しい状況に陥るわけですね。
 従って、同じように日本も観光客が来なくなると、神戸で起こったことが、今後、日本全体に降りかかってくるのです。ただし、良いヒントがあります。神戸の場合は96年以降観光客が復活しているのです。むしろ震災前よりも観光入込客数が増えました。何故でしょうか。ルミナリエです。ルミナリエは鎮魂のため開催されています。震災を逆手にとり、新たな観光資源を生み出したということになります。

(6)貿易
 話は戻りますが、今回の東日本大震災の後、大阪で大変忙しくなった業界があります。実需が発生した業界です。倉庫業界です。何故かわかりますか?
 逆に考えるとわかります。神戸と大阪税関の国内シェアを見ますと、ずっと神戸が大阪を上回っていたのですが、95年の震災後、大阪に逆転され、シェアは減少する一方となっています。港の設備を復興投資により戻したにもかかわらずです。つまり、一旦、利用者にロジスティクスを変更されてしまうと、何らかのイベントがない限り、戻ることはないということです。
 自分に置き換えてみてください。会社に行くルートを一度決めると、なかなかそのルートを変えませんよね。
 企業にとっても同じです。震災を機にロジスティクスを、神戸港からではなく大阪港へと変更するということは、港に行くまでのトラック運搬ルートなど全ての経路を変えることですので、戻すインセンティブはなかなかないのです。
 そういう意味では、今回、東日本大震災の影響で大阪湾に荷物が集まったということは、今後もこのルートが定着する可能性が高いということです。

(7)生活
 一方、生活のインパクトはどうだったのかと言いますと、震災後、神戸市における可処分所得は復興需要によって一時的に上昇しました。その後は減少傾向にありますが、一時的にでも給料が上がったわけです。
 各シンクタンクが、短期的には震災で日本のGDPはプラスになるかもしれない、と言っているのは、復興需要もそうですが、こうした可処分所得の上昇等を受けた復興消費も期待されるからなのです。震災後の電力制約によって、メーカーではピークシフトのための休日出勤を行っていますので、休日出勤手当などが従業員にふるまわれるわけです。その分が消費にまわれば、GDPを押し上げる効果が期待されるのです。
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<阪神・淡路大震災の影響総論>
 ただし何度も言うとおり、長期的に見ると、日本の経済成長は厳しい状況に陥る可能性があります。誰もが短期的には良いけれども、中長期的には非常に悲観的な見方をしています。
 阪神・淡路大震災後を見ても、確かに短期的には復興投資・需要によって、建設業を中心に兵庫県のGRPは増加しました。ただし、ほとんどの経済指標をみても、震災から3年以上経つと全国水準を下回りはじめ中長期的に低迷します。特に、製造業は、震災によって、大企業の移転や下請け企業の業績悪化などで低迷しました。神戸から多くの企業が外に出て行ってしまったのです。
 貿易についても、震災直後に急減し、大阪税関に機能代替されてしまいました。
 地方財政は、復旧・復興投資によって債務残高が増加しています。
 生活は、復興需要によって一時的に可処分所得が増加したものの、その後、段々と減少していきました。つまり、地域経済の足腰が弱くなってしまったので、従業員の給与までお金がなかなか回らなくなったということです。
 工場移転は、震災後2年間で移転件数が急増し、地元有力企業の本社・工場の移転が発生しました。
 ここで阪神・淡路大震災後に兵庫県で起きたことを見てみますと、今後日本で何が起こるかということがある程度予想できるのではないでしょうか。
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●最新の設備投資動向
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 ここで、最新の当行による設備投資動向調査の数字を紹介したいと思います。
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<2011年度設備投資動向>
(1)関西地域の設備投資動向
 当行は1950年代から企業の設備投資動向を調査しております。なぜ設備投資動向調査を行うかというと、設備投資の数字は景気のトレンドとほぼ連動しているので、端的に景気動向を見たい場合、非常に便利な数字だからです。景気が良ければ企業は工場をつくりますし、製造ラインを増やしたり、中にはビルを建てたりします。逆に景気が悪くなると、そういう投資を止めるからです。
 2011年度の企業の設備計画を見ますと、全産業で設備投資の対前年度伸び率は▲2.7%となりました。つまり、企業は昨年度よりも今年度の方が設備投資額を減らしたということです。製造業は▲6.0%、非製造業は▲0.6%です。景気のトレンドを表すとすれば、関西経済は設備投資動向同様マイナス傾向にあるのでしょうか?
 過去の関西の製造業の設備投資額の伸び率の推移を見てみますと、円高不況の後はマイナスになっていますが、バブル時は前年度比二桁増が続く高い伸び率が続いていましたが、90年代に入ると一貫してマイナストレンドに入っています。95年、96年だけは阪神・淡路大震災の影響で一時的に伸び率は18.5%、4.6%とプラスになっていますが、これを除けばマイナスです。01年に入り、規制緩和等により景気も持ち直してくると製造業の伸び率も、03年から8.9%、14.9%、23.6%と伸びてきました。ところが、09年にリーマンショックが起こると、一転して▲15.1%、10年は▲22.0%と伸び率はマイナスに転じています。このマイナス幅からみれば、11年度の▲6.0%は決して悪い数字ではないと考えています。

(2)業種別動向
 さらに細かくみてみますと関西の製造業で設備投資額の伸び率が高いのは、化学、一般機械などです。化学が伸びているのは、リチウムイオン電池や蓄電池などの電池関連の材料を製造するためのラインが投資されているからです。自然エネルギーは大変注目を集めていますので、こうした電池関連の需要はさらに伸張することが予想され、そのための製造ライン増強投資が当面期待されます。太陽電池や蓄電池などの需要が伸びるだろうと予測し、そのための材料を作るラインを増強するからです。だから化学が20%程度設備投資額が伸びたのです。
 一般機械もプラスになっているのは、新興国等外需が好調な産業機械をつくるためのラインが増えているためです。
 一方、製造業で大きくマイナスになっているのは電気機械です。電気機械は、03年~08年まで関西の製造業の設備投資をプラスに牽引きました。大阪湾周辺にディスプレイ関連の工場が多くつくられたためです。ただし、パネルを使うテレビ自体の価格が低下してくると、予定していた設備投資は減額修正せざるを得ません。それによって電気機械は大きくマイナスとなってしまったのです。
 ただし、個別に見ますと、太陽電池やリチウムイオン電池、LEDといったいわゆるグリーン投資と呼ばれる分野は、研究施設など積極的に投資が行われています。業種にこだわらず、非鉄金属、化学、電気機械などかかるグリーン投資を抜き出してみると前年度比100%の伸びとなっています。
 関西は、大阪湾を中心にグリーン投資が積極的に行われており、大阪湾は海外から「グリーンベイ」などと呼ばれています。以前半導体工場だった場所を上手くラインを改造し、リチウムイオン電池や太陽電池、LEDなどのグリーン分野の製造ラインにシフトしてきたからです。ここに関西の未来の可能性があるのではないでしょうか。
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<特別調査>
当行が先般実施した、震災等にかかる特別調査の結果をみてみましょう。

(1)設備投資の震災対応シフト
 東日本大震災で被災し、復旧・復興投資をするという292社にアンケートをとったところ、設備投資の伸び率は2.5%のプラスとなっていました。いわゆる復旧・復興投資ですね。ところが、この復旧・復興投資分を除けば▲3.9%とマイナスとなりました。前向きの投資が削られているのではないかと推察されます。復旧・復興が長期化すれば、例えば、関西にお金が回らなくなるという可能性があります。

(2)震災の影響及び対策
 また、関西本社企業に「7月1日までに震災の影響のうち最も影響が大きいもの」を聞いたところ、「電力不足」と回答した企業が、全国の26.5%に対して、関西の会社は15%程度しかありませんでした。7月1日時点では、関西の企業で電力不足を懸念していたところは少なかったのでしょう。しかしながら、同じアンケートで「今後(7月1日以降)、何が大変か」と聞きましたら、関西本社企業も全国と同じくらい、「電力不足」を一番の課題として挙げた社数が多くなりました。

(3)企業の海外シフト
 最近では電力不足に加え、円高問題も企業に重くのしかかってきます。実際に数字に表れているのが、海外/国内の設備投資の比率です。これは国内の投資を100とした時に、海外にどのくらい投資をするかということを表す数字ですが、製造業では、03年から海外が50くらいで推移していましたが、2011年は70くらいに急激に増加しています。非常に産業空洞化が懸念されます。
 「国内投資を維持する理由は何か」聞いたところ、「国内需要対応」「国内の雇用維持・既存設備の存在」等の消極的な理由を除けば、「サプライチェーンが国内に存在」「人材が国内に存在」という回答が多くなっていました。逆に言えば、サプライチェーンが国内になくなれば、別に国内にいなくても良いという企業が多いということです。
 「電力不足が問題で空洞化するということであれば、アジアも電力供給体制は不安定であることにはかわりはないので、空洞化は懸念しなくては良いのではないか」と言われる評論家の方も散見されますが、実際に企業は非常にシビアで、「同じ電力不足なら、マーケットとして期待できる場所に工場を建てる」と言っています。

(4)研究開発拠点
 「付加価値の低い製造部門が海外に移転するのは仕方がないので、日本には研究開発部門だけ残れば良い」という意見もよく聞きます。本当でしょうか。
 「海外研究開発活動」について聞いていますが、「今後、海外の研究開発施設を強化する」「国内は現状維持、もしくは縮小する」という企業が9%も存在します。つまり、1割の企業はいわゆる“頭脳”までも海外に移転しようと思っているということです。
 「なぜ、研究開発を海外で行うのか」。「現地需要への対応」「生産拠点との近さ」という答えが圧倒的です。生産拠点が移れば必然的に研究開発施設も海外に移っていくのです。
 このように日本にとっては悲観的な話をしましたが、では、どうすればよいのでしょうか。
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<経済の見通し>
(1)短期的にはGDPはプラス
 繰り返し述べているように、短期的、つまり2年くらいは復興投資や復興需要でGDPはプラスになるかもしれません。個人的に臨時手当で給与が増える人がでるかもしれません。

(2)中長期的には低成長
 しかしながら、長期的に見ると、日本経済全体が沈む可能性があります。財政負担が重く、加えて電力制約もあります。そうなると、工場を国外に建てようという話になり、空洞化がすすみ、このままだと低成長を余儀なくされてしまいます。
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<回復策>
 では、どうすればよいのでしょうか。単純に考えると、税収を上げましょう、増税をしましょうという話になりがちです。ただし、できれば勘弁してほしいというのが普通の人の本音だと思います。

(1)成長分野への投資促進策の重要性
 どうしたらよいか。回答は1つしかありません。国内の産業を活性化して、日本全体の経済力のパイ自体を増やし、薄く広く税をとっていくしかありません。そのためには外貨を稼いだり、潜在的な内需を掘り起こすような成長企業を育成すべきなのです。
 幸い、大阪湾を中心に、関西はグリーン分野、いわゆるリチウムイオン電池や太陽電池、LEDなどのメーカーが集積しています。これこそ成長産業です。こうした分野にうまく資金がまわり、どんどん設備投資をし、どんどん製造し、輸出が伸びていき、外貨を稼いで、税収も増える、ということが大切なのです。
 そのためには、規制緩和もそうですし、タックスクレジットのような方法も有効でしょう。単純に補助金を配布する以外の方法はたくさんあります。

(2)企業の省エネ設備普及措置が必要
 そうは言っても、先ほどの特別調査にあるとおり、関西企業の半分以上が電力制約を不安材料として挙げています。海外に展開し、研究施設も海外に移転したいというところが1割もあります。この人たちをつなぎ止める必要があります。
 自家発電やLEDなどといった省エネ設備の普及措置をそれら企業に手当してあげるのが良いかもしれません。日本のLEDは、値段が高くてまだまだ一般に普及しているとは言い難いです。生産に比べて需要が足りず、価格を下げることができないからです。一方、中国では各省市のプロジェクトとして、道路の街灯をすべてLEDに替えて、官が強制的に需要をつくっています。日本も単純に補助金を配布するというやり方よりも、例えば高速道路や街灯などを全てLEDに変更するなどといった大胆な施策によって、需要を作り出し、商品の値段を下げ、安いLEDを国内に残る企業に提供する、というような支援ができないでしょうか。

(3)国内生産拠点の維持施策
 また、サプライチェーンと研究開発施設があるので日本に生産拠点を維持するのだ、というアンケート結果も出ていますので、サプライチェーンと研究開発施設を日本に置いてもらうための、何らかのインセンティブをつくってあげるのも有効です。タックスクレジットといった柔軟性の高い税制を導入することも有効でしょう。
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<話題のつぶやき>
 最近、ツイッターで話題になったつぶやきがありました。今の日本を表して、「老人が若者に対し『お前が借金返して、俺の面倒を見て、敬え。ところで、お前元気ないな』と言っている」というものです。こうした事態を打開するためにも、若者の雇用を生み出すための成長分野への投資促進策は必須であり、特に、関西においては、ベイエリアに集積しているグリーン投資分野に資金が振り向けられる方法を官民あげて早急に取り組む必要があるでしょう。
以上
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