一般財団法人大阪湾ベイエリア開発推進機構
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広報誌『O-BAY』
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「大阪湾ベイエリアの戦略的な将来像を探る」連続講演会 第4回
当財団では、大阪湾ベイエリアの産業集積動向や戦略などについて、多様な講師をお招きする連続講演会を開催しております。第4回の講演内容について紹介致します。
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■テーマ: 広域連携による大阪湾ベイエリア開発の課題
~米国広域都市圏に学ぶ地域経済活性化戦略~
■講 師: 京都府立大学 公共政策学部 教授 青山 公三 氏
■日 時: 平成23年3月18日(金)14時00分~15時15分
■場 所: 大阪大学中之島センター 7階 講義室2
■参加人数: 37名
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講演の様子
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●はじめに
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 私は今、大学の教員をしていますが、元々は日本で15年間、アメリカでも15年間、民間シンクタンクの仕事をしていました。
 先日来、地震と津波が起きて大変な状況になっていますが、実は、私自身が関西に密接な関わりを持つようになったのは、阪神淡路大震災の時からです。当時、私はニューヨークのシンクタンクにいたのですが、そのシンクタンクは1923年の関東大震災の時に、当時の内務大臣後藤新平に「東京の大震災を機に、このような都市計画をしてはどうか」とアドバイスをし、“後藤新平の大風呂敷”と言われる基になった案を提供した研究機関でした。そういう歴史があったので、阪神淡路大震災が起きた時に「何とか我々も役に立たなければならない」と考えて、関西のために、アメリカや世界で起きた地震後の危機管理対応等を調査して日本に送りました。
 そのレポートは、当時の関西経済同友会代表幹事で関西電力の社長だった秋山氏から震災後2週間で村山内閣に渡されましたが、分厚い資料編を付けて「アメリカの危機管理対応に学びながら、日本はどうするべきか」ということを13枚程度にコンパクトにまとめていましたので、その後、多くの人に読んでいただき、「アメリカの危機管理を知る上で面白い」という話になりました。その年の6月には、世界各国から人を集めて調査団を組み、関西に参りまして、いろいろな方々とお会いし、神戸の震災復興をさまざまな角度から議論をした次第です。
 本日は危機管理の講演会ではありませんが、このような時勢ですので、序章としてこの話をしたいと思います。
 2001年にワールド・トレード・センターの事件があり、この時も日本から「テロに対する危機管理対応はどうすれば良いか」といういろいろなリクエストがありました。
 それから、2005年にはハリケーン・カトリーナの災害がありました。この事例は今回の津波の災害にも役立つと思いますが、ハリケーン・カトリーナの後の洪水をどう処理するかということ、あるいは、その時の危機管理について、アメリカで調査を行いました。
 そうしたアメリカでの危機対応を見ていますと、今の日本の危機管理対応の部分で非常に歯痒いと思う部分がいくつかあります。最も大きな部分は、今回、あれほど広域的な大災害にも関わらず、国の姿が見えないということです。各県が復旧の責任を持って対応するようになっているのかもしれませんが、実際は、あれだけ広域になると県の職員も被災者が多いという状況ですので、このような時こそ国が前面に立って取り組むべきではないかと思います。
 翻ってみると、あの地震は東北で起きましたが、これから関西に関わる地震として東海地震、東南海地震が起きるだろうと予測されています。今回の宮城沖を震源域とする地震は、向こう30年間に起きる確率が99%という数字が出されていて、結果として、予測されたよりももっと大きな地震が起きてしまいました。しかし、東海地震も向こう30年間に大地震が起きる確率が87%もあります。99%と87%の違いは、地震の専門家に聞いても「ほとんど差がないと考えて良い」と言われています。東南海地震も70%の確率が発表されています。
 87%や70%という数字に対して、「生きている間は起きてほしくない」と思いつつも、そういう時にこそ起こり得る可能性があるわけです。まさにこのベイエリア地域は、こうした大災害が起きた時に危機的な状況になると思いますので、時間がありましたらその図を最後にお見せしたいと思っています。
 このような状況があるからこそ、正に、ベイエリアの人たちがスクラムを組んで、大災害に対応すること自体が、海外企業にとっての大きな魅力になるわけです。これだけ大きな地震が起きますと、海外の企業も日本に立地する際に「津波が来るようなところには立地したくない」と思いますし、安全面での検討は必ずチェックが入ります。そういう時に、このベイエリアがきちんと対応をしているとなれば、それは「日本に立地するなら、東京よりも大阪だ」と思ってもらえる要素になるだろうと思います。
 その意味で、今回の震災をこれからの一つの教訓として、ベイエリア地域でいろいろと展開していくために、是非、今回の震災に学んでいただく部分をたくさん見つけていただきたいと思います。
 このことを踏まえつつ、これから「米国広域都市圏に学ぶ地域経済活性化戦略」について話をしたいと思います。
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●関西地域の位置づけ
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<三大都市圏への転入超過数と実質GDP成長率の推移>
 まず、関西地域の位置づけについて考えるために、東京・大阪・名古屋の三大都市圏に他県からどれだけの人口が転入、あるいは転出したかということを、三大都市圏全体、東京圏、大阪圏、名古屋圏を比較して見てみたいと思います。大阪圏とは、兵庫、大阪、奈良、京都を大阪圏と捉えています。
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(1)全総の時代
 これによると、1960年代に全国総合開発計画が出され、工業が大都市だけに集まるのではなく、もっと分散させなければ日本の国土の調和ある発展は望めないということで、新産業都市、工業整備特別地域が打ち出されました。これによって、志布志湾、苫小牧東等、大都市から遠く離れたところに大きな工業地域をつくるという計画が行われました。
 その甲斐があったのかどうかはわかりませんが、三大都市圏への人口集中は少し減ったような気がします。便宜的に、人口の移動が大きかった大阪・兵庫を代表として見ますと、当時は941万人の人口がいたことになります。

(2)新全総の時代
 次に、田中角栄元首相が推進した新全総があり、新幹線や高速道路を日本全国に通し、それによって色々な機能の地方分散を図ろうと言われました。
 この直後に第1次オイルショックが起きるわけですが、そのオイルショックのお陰でそれまで大都市に集中していた人口の集中が止まったかに見えました。

(3)三全総の時代
 その時に、第三次全国総合開発計画が出され、地方の時代と言われるようになりました。「これからは地方の責任でいろいろなことをしよう。これまでのような大きな公共投資は地方では行わない」という計画が打ち出されたわけです。
 ところが、それがまた裏目に出てしまいました。地方は、国の財政投資やいろいろな公共事業などに経済が依存している率が非常に高く、15%~20%近い経済を公共投資に頼っている地方の県も少なくありませんでした。そういうところで公共投資を外されてしまうと、地方にパワーのある企業がない限りは浮上できなくなってしまいます。
 そういうこともあって、三全総が出た後は、再び、大都市に人口が集中するようになりました。

(4)四全総の時代
 ただし、その時は大都市でも東京に一極集中するという現象が起きたために、これを何とかしなければならないという議論が展開されるようになりました。実は1986年頃、私はまだ日本でいろいろな地域政策を考えるシンクタンクにいたのですが、その時の議論というのが、少子高齢化、農村部の過疎化、限界集落という言葉はありませんでしたが、要するに農村が廃れていくということ、そして、国際化を遂げることが必要だという議論でした。どこかで聞いたような話ですが、正に今議論されている、少子高齢化、農村部の衰退、グローバルな視点での経済展開など、今と全く同じことを四全総の時代に議論していたわけです。
 そして、その四全総の時に、多極分散型国土ということで、多極化を目指したテクノポリス構想やリゾート地域、地方中核都市などの計画が国主導で出されました。しかし、結局、その時も政策によって人口集中が止まったのではなく、バブル崩壊という経済の大きな動きによって、東京一極集中が1995年前後に止まったかに見えました。

(5)21世紀の国土のグランドデザイン~国土創生計画
 これでまた地方の時代が始まるかと思っていましたら、また1980年代に起きたよりも大きな東京一極集中が起きてしまったのです。
 そして、1998年頃に、国土庁から建設省と国土庁と運輸省を合体させた国土交通省に替わる段階で、全国総合開発計画を止めて国土のグランドデザインというものが出されました。しかし、これは何も示しておらず、そのために東京がまた一極集中したのかはどうかはわかりませんが、酷い状況になりました。
 そしてつい先頃、国土創生計画が出されました。
 このような大きな流れの中で、このベイエリアには60年代から80年代にかけて420万人という人口が集中しました。他の京都や奈良、和歌山ももちろん若干増えていますが、それを足しても関西圏全体での増加が450万人くらいですので、この大阪と兵庫のベイエリアの中に420万人が増えたという状況があったわけです。
 したがって、これからベイエリアをどうしていくのかということは非常に大きな問題です。リーマンショックもあって東京一極集中も下火になってきたかに見えていますが、そういう要素を含めても、また東京一極集中があるのではないかという動きもあります。
 それに対して、大阪圏全体の人口の流出入を見ますと、万博の頃以降ずっと、大阪圏は転出が転入を上回るマイナス状態が続いています。つまり、人口が外から入ってこない時代になってしまったということです。関西圏、あるいはベイエリアも含めて、このような状況が起きていたわけです。
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<ベイエリア都市圏への問題提起>
 このような状況を踏まえて、それでは、これからベイエリアは何を考えていくべきなのでしょうか。
 ベイエリア都市圏、あるいは関西都市圏、京阪神は、一体となって首都圏に対抗する圏域を作るはずだったのですが、結果は首都圏の1人勝ちという状況になっています。それどころか、ベイエリアに本社を持つ企業が続々と東京に行ってしまうという状況もありました。
 それほど東京が良いのか、あるいは「グローバル化に対応するには東京に行かなくてはダメだ」と考えて、皆、東京に行ってしまったわけですが、私が長い間いたアメリカでは、むしろグローバル化に対応するにはニューヨークにいるよりも、サンフランシスコやボストン、シアトルにいた方が良いという企業が多かったので、その辺りの動きがよくわかりません。もっとベイエリアや関西に対する自信があっても良かったのではないかと感じています。
 それから、ベイエリアは「一つ」として、こちらの機構もそういう意図で形成されていますが、本当に「一つ」なのかという問題があります。各府県と主要な都市が名を連ねて「一つ」という言い方をしていますが、実際に行っている政策を見ると「一つ一つ」という感じではないかと思います。
 また、このベイエリア全体に一つのアイデンティティがあるのかどうかということも重要なポイントだと思います。「この地域のアイデンティティは何か」というと、すぐに歴史文化が、京都を代表にして言われたりしますが、それ以外のアイデンティティは何なのかということをもっと考えるべきではないかと思います。
 そして、東京経由のグローバル化ではなく、ベイエリア都市圏が直接グローバル化を進めようという動きが必要です。すでにその動きは始まっているようですが、これまでは少なくとも東京経由で行くという状況がありました。関西空港の国際便の発着先を見ても、グローバル化しているとは思えません。ニューヨークから関西に来ようとしても、大阪には直接来ることができないのです。私が住んでいた1992年~2007年までの15年間で1度たりとも関西からニューヨークにダイレクトのフライトが入ったことはありませんでした。つまり、世界経済の中心であるはずのニューヨークと大阪が結び付いていないという、この驚きは私にとって非常に衝撃でした。
 そのことを実感したのは、1995年の阪神淡路大震災の時でした。とにかくニューヨークから神戸に行こうとしたのですが、当時は関空から船で神戸に渡る路線がありましたので、関空に行ければ便利なのに、ニューヨークから関空へのダイレクトフライトがないのです。結局、成田経由で伊丹に来るか、あるいはサンフランシスコからダイレクトフライトで来るしかないという、そういうことが現実にありました。
 人口はこれほどいるのに、ニューヨークからのダイレクトフライトがないなど、絶対におかしいと私はニューヨークの人たちと話していたのですが、これは地元の皆さん方がそういう不便をあまり感じていないからかもしれません。例えば、関西の企業が続々と国際展開をして、「ニューヨークにダイレクトフライトがないなど許せない」と不便を感じて声を挙げていれば、今頃はそうではなかったかもしれません。これは今さら言っても仕方のないことですが、外にいた人間にとっては、関西が非常に遠く感じられたということです。
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●アメリカの広域都市圏の取り組みに学ぶ
  ベイエリア地域経済活性化のための7つの地域戦略
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 ここからが本論になりますが、本論を申し上げる前に、いつも私のプレゼンは最後の方になると時間がなくなるので、本日は結論から申し上げたいと思います。
 私は15年間アメリカにいて、全部で50都市くらいを回り、特に経済活性化に関わる調査をいろいろな都市、都市圏に対して行い、その中でいくつもの面白い情報を蓄えてきました。そこで、日本とは明らかに違う点をベースにしながら、7つの地域戦略としてまとめて紹介したいと思います。
 したがって、後程、いくつか事例をお見せしますが、その集大成として、最初にお話する7つの項目が、それぞれの事例のどこかにちりばめられていると思っていただければよろしいかと思います。
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<1.的確な地域分析と国際的な視点も含んだ比較分析>
 まず、アメリカの都市圏、広域都市圏は、それぞれ地域の分析を的確に行っています。それから、自分の地域の立ち位置を知るために、必ず他所の圏域との比較分析、世界の経済が今どう動いているのか、どこの国が面白いのか、どの国がパワーを持っているのかという分析をします。
 例えば、前回、韓国は今伸び盛りだけれども、内部で利益を上げていて外で上げていないので、内で利益を上げているところで、外に出たいと思っているようなところを探さなければならないという話がありましたが、そのように地域の経済分析をしながら、国際的な視点も入れて、その都市がどう動いていくのかということを分析します。
 そのためには、いろいろなデータを持たなければなりません。後程、シアトルの例やノースカロライナのリサーチ・トライアングル・パークの例などをお見せしたいと思いますが、自分の地域が、全米の中でどういう立ち位置にあるのか、あるいは、全世界の主要な都市と比べてどうなのかということを認識した上で、自分のところが持っているリソースを最大限に活かし、それを戦略として使っていくという、ベースになるものが必要です。
 例えば、ベイエリア地域のエコノミック・レビューというものがあって、その中に他との比較も含めた地域分析が載っていると、外から来る企業にとっては、この地域が今どういう状況なのかということがよくわかります。
 ですから、そういう意味でも、各県がこういうものを一つずつ持つよりも、地域全体として出すことが重要なポイントだと思います。
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<2.ターゲット・マーケティングとリクルーティング>
 そのような経済分析を基にして、ターゲット・マーケティング、あるいはターゲット・リクルーティングという手法があります。これについては、最近、日本の都道府県もターゲット・マーケティングを少し認識するようになってきたように思います。
 かつて高度経済成長の時は、工業団地をつくればすぐに買い手がついて、いつでも来てくれるような状況があり、研究学園都市の土地を用意すれば、大手の企業が次々に来てくれるという状況がありましたが、バブル崩壊以後、そのような訳にはいかなくなりました。
 しかし、バブル崩壊後に話を伺っても、工業団地はたくさんあってリストもあるけれども、関西全体のリストがあるかというと、大阪府は大阪府のリスト、兵庫県は兵庫県のリストを持っているという形で、辛うじて関西電力や大阪ガスが横断的な資料を持っているだけという状況でした。
 そうではなくて、地域全体として、自分たちが提供できるものは何かということを考えなければなりません。一番的確な分析に基づいて、この地域が何を狙うかということです。例えば、バイオを狙うとか、神戸であればメディカルサイエンスを狙うとか、いろいろあると思いますが、今は、それが地域としての合意になっていないという感じがします。
 やはり、ターゲット・マーケティングによって、きちんとした分析をしなければ、なかなか攻め入ることができない部分があります。
 例えば、後程、紹介するシアトルの例では、地域に企業を誘致しようということになると、民間のコンサルタントも入れて、どの地域が今伸び盛りか、その地域の中でどの企業が面白そうか、すべてリストアップします。そして、そのリストに基づいて、その企業に乗り込んで行きます。
 乗り込んで行く時も、リクルーティング・タスク・フォースをつくります。その中には、経済開発や地域の許認可にも関わっているカウンティの役人や、リクルートしようとしている同じ業種の地元企業、大学、研究機関、デベロッパー等が入っていて、どのような質問が出てもその場で即座に答えられるようにしています。難しい質問を出されて「地元に帰って専門家に聞いた上で返事をします」というのではなく、その場で間髪を入れずに「これはこういう状況になっています」と言ってのけて、相手の企業を説得してくるわけです。
 もちろん、全部成功するわけではありませんが、私がシアトルで聞いた時は「成功率は20%あれば良い」という話でした。10社に当たって2社成功すれば、素晴らしい成功率だと思います。もちろん、絞り込みの作業は大変ですが、そのようなタスク・フォースをつくって乗り込んで行くということを、この地域も行っても良いのではないかと思います。
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<3.諸機関、諸団体をつなぐCONNECTの創出>
 3番目は、諸機関、諸団体をつなぐCONNECTの創出です。元々、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)が作ったCONNECTというノンプロフィットの団体がありましたが、これは、地元経済界、中でもお金を持っているファイナンシャルグループと、ベンチャーにお金を出してくれるエンジェルと言われる人々、それから、地域の業界団体、あるいは法律やビジネスのコンサルテーションをする団体等をすべてつないで、そういう人たちが互いに連携が取れるような仕組みとして作られたものです。
 その組織は、地域の中で上手く機能しています。携帯電話の基本技術はUCSDで始まったわけですが、そういう機能に携わった人たちがいろいろな形でスピンアウトして、新しいベンチャービジネスを立ち上げていったわけです。そのようにいろいろな機関をつなぐCONNECTを創る必要があると思います。
 関西経済連合会で関西コネクトを創るという話を以前聞いたことがあります。それが今、どうなっているのかは知りませんが、そういうCONNECTがいろいろな団体を結んで、単に組織をつなぐだけではなく、実質的に動かしていく、そうした組織が重要になります。
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<4.テクノロジー教育・トレーニングの展開>
 4番目は、教育・トレーニングですが、日本では文科省がすべてを握っているので、地域が関わるのはなかなか難しい分野です。それでも、地域である産業にターゲットを決めて、その産業を育てていこうとするならば、たとえ「人材は世界から採れば良い」と言っても、その地域出身の子どもたちがその産業に興味を持つようにすることは非常に重要な要素となります。
 例えば、シアトルでは、インターネットが普及し始めた1994、95年前後から、ある経済団体がテクノロジー・ラウンドテーブルというものを作って、中学校や高校の先生をそこに呼び、「これからのITはこういうことができる」という説明をしました。当時は、まだ学校にコンピュータが普及しているという状況ではありませんでしたが、お土産にコンピュータを持ち帰っていただくということをしていました。
 それから、ボストンにホワイトヘッドという、これもバイオテクノロジーの有名な研究所があります。マサチューセッツ工科大学の中の一つの研究機関ですが、バイオテクノロジーをより多くの人たちに知ってもらうために、高校の先生たちを呼んでガイダンスをして、場合によっては、その先生の教え子たちを連れて来てもらい、子どもたちにガイダンスをするというプログラムがあります。
 そのようなテクノロジー教育やトレーニングを、例えば、このベイエリア機構のようなところが行ってはどうでしょうか。地域活性化というと、教育はなかなかテーマに挙がりませんし、挙がっても「文科省のすることなので、我々は手が出せない」ということになってしまいますが、やはり、地域の一つのアイデンティティや特色を出していくためには、このようなテクノロジー教育やテクノロジー・トレーニングを構築して、いろいろな形で地域の子どもたちや中・高生がテクノロジーに興味を持つような機会を作ることが必要ではないかと思います。
 これもいろいろなところで行われているかと思いますが、残念ながら、日本に帰って来ていろいろなところで話を聞きますと、細々とはやっていても、地域として体系的に行っているという話は聞きません。
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<5.ワンストップの立地情報センター>
 5番目は、ワンストップの立地情報センターです。関西のエリアで、例えば、このベイエリア機構に属している府県の情報が、「ここに行けばすべてわかる」というところがあるかどうかということです。
 今、そういう場所はないと思いますが、例えば、そういうところへ行って、「この中でこのくらいの規模の面積がほしい」「このような条件の土地がほしい」「水はこのくらいほしい」「従業員はこのくらいほしい」というような条件をインプットすると、圏域内の対象候補地が出てきて、その候補地にカーソルを当ててクリックすると、例えば、その候補地から車で1時間程度の通勤可能なエリアにどのような学歴を持った、どのような人たちが住んでいるか等、その候補地に関するデータがすべて出てきます。
 それから、そのエリア内に立地している企業、自社が使いたいと思っているサービス企業の分布もわかります。
 私が最も素晴らしいと思ったのは、アトランタにあるジョージア・パワーという電力会社が州と協力して、アトランタ・リソース・インフォメーションセンターをつくったという事例です。そこに行くと、ジョージア州におけるいろいろな立地条件についてほとんどわかるようになっています。
 例えば、ある企業がアトランタを中心としたエリアに立地したいと思った場合、まず、そのセンターに行って絞り込み作業を行います。そして、3~4ヶ所に絞り込むと、その候補地を実際に見に行きます。そのような形で、立地をしようとする企業に対していろいろなサービスを提供できる体制が整っています。
 したがって、このベイエリアでも、労働力の情報、教育の情報、テクノロジー開発の情報等、あらゆる情報が集積されたセンターがあると良いのではないかと思います。
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<6.企業への支援体制・優遇措置>
 それから、これは当たり前のことですが、企業への支援体制も問題となります。インセンティブがなければ企業は来てくれないという話もあります。
 以前、大阪のある会議で北ヤードの議論がありましたが、その時にニューヨークで有名な不動産仲介業をしている人が来ていましたので、その人と議論をしたところ、彼は「企業を誘致するにはインセンティブが必要である。インセンティブもないのに誘致できるはずがない」と言っていました。
 確かに、インセンティブは重要であり、税のインセンティブをはじめとして、いろいろなインセンティブがありますので、そういうインセンティブをいかに供給できるのかという問題があります。
 ただし、日本の税制の中では税を簡単に変更できないという状況がありますので、インセンティブの提供も簡単な問題ではありませんが、例えば、関西広域連合という組織ができて、その組織が国から課税の権限を取ってくることが仮にできたとすれば、このような支援体制はあるだろうと思います。
 また、私は、大阪に非常に良い立地条件があるにもかかわらず、東京に本社が移転してしまうのが不思議で仕方がないのですが、そういう面で、アトランタは、本社機能を誘致しようという動きがありました。これもターゲット・マーケティングで、いろいろな企業のリストを見て、業種と立地場所を見ながら、必ずしも大都市になくても良いのではないかと思うような企業を全部ピックアップします。そして、その企業に個別撃破で誘致作戦を敢行し、「本社が来てくれたら、これほど素晴らしい優遇措置がある」というものを見せながら、アトランタに本社を移してもらうという取り組みを行っていますが、現実に成功しています。
 そのように、アトランタは、中小企業も含めた本社をたくさん誘致しており、そのための優遇措置もかなりあるので、面白い例があると思います。
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<7.地域のライフスタイル提案>
 最後は、ライフスタイルの提案です。日本人は企業誘致をする時にライフスタイルをあまり考えないのかもしれませんが、アメリカの資料を見ると、必ずどこかに「ライフスタイル」と書いてあって、「あなたの企業が来たら、従業員たちにこんなライフスタイルを提供できる」と提案しています。
 そういう点で、私はこのベイエリアは素晴らしいライフスタイルを提供できるエリアだと思いますが、これまで「このベイエリアに立地したら、このように素晴らしいライフスタイルがある」というライフスタイル提案がどれほどされてきたでしょうか。多分、あまりされていないのではないかと思いますが、ライフスタイルをきちんと提案することは、アメリカの広域都市圏の中では必須のテーマになっています。
 以上の7つの戦略が、私がいろいろなところを見てきた中での結論的なものになります。
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●米国の広域都市圏の事例:シアトル・ピュージェット湾都市圏
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<シアトルの概要>
 ここから事例を紹介したいと思います。
 シアトルは、ベイエリアのような感じで、海を中心にエリアが形成されています。都市圏人口は304万人くらいですが、今も伸びています。圏域は約16,000km2、大阪・兵庫・京都・奈良を足すと18,000km2なので、それよりも少し小さいくらいです。南北が120kmで、日本海から奈良県の県境よりやや北側までくらいなると思います。そのように考えますと、結構、大きなエリアだと思います。
 このピュージェット湾の都市圏が、企業誘致も含めて、大変に面白い展開をしています。基本的な考え方としては、シアトルはアジア・太平洋地域、及びヨーロッパから飛行機でほぼ等距離にあるので、東京とロンドンがほぼ同じようなエリアにあるとか、ターゲットとすべき都市は地球上にたくさんあるということから、一つの戦略を作っています。
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<ピュージェット湾地域評議会(PSRC)>
 この地域の広域調整に大きな役割を果たしているのが、ピュージェット湾地域評議会(Puget Sound Regional Council:PSRC)です。これは一種のベイエリア機構のような組織で、ワシントン州の4つのカウンティと70の都市、それから3つのポートオーソリティが協力してできた広域行政圏です。
 その行政圏は、将来のビジョンの作成や交通に関わる地域調整、土地利用のコントロール、経済開発、そして地域の様々なデータベースの作成等を行っていますが、特に、地域のデータベースの作成は重要で、雇用者の情報も、地域住民の情報も、企業の情報も、あらゆる情報がすべて地理情報システム(GIS)に入っており、そのGISの情報集もあるので、この地域が詳細にわかるようになっています。地域の分析をしようとする時も、このGISを上手く使って、いろいろな提案をしています。
 この圏域内のほぼすべての大規模プロジェクトにPSRCが関わっています。つまり、何か大きな開発をしようとする時に、その開発の経済効果はどうなのか、あるいは、地域の政策との整合性はどうなのか等、そういうものをすべてここでデータ集積しています。
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<PSRC and Central Puget Sound>
 ワシントン州の真ん中のエリアにシアトルがあり、その周りがPSRCの対象エリアとなりますが、その中でPSRCの周りには、例えば、Economic Developmentが一つの重要な要素としてあります。それから、Growth Managementという項目がありますが、これは地域全体の環境を上手く維持しながら、美しい発展をするためのシステムを分担しています。もう一つはTransportation Planningで、地域のハイウェイや自転車道やLRT等、交通に関わるすべてのPlanningをこのPSRCが行っています。
 なぜ、そのようなことができるかというと、実はTransportation Planningがポイントであり、ここに連邦のガソリン税の補助金が投入され、それでPSRCの職員60人の内の40人分の人件費が賄われています。データベースを作る部門や、計画を作る部門等、いろいろありますが、それによって地域のデータを蓄積し、交通網をつくる時に、「ハイウェイを通すとどのような問題が起こるか」「どのような効果が出るか」ということをすべてGISで弾き出すことができます。その費用を連邦政府に補助してもらっているという状況です。
 それにより、経済開発もできますし、地域の成長戦略も作ることができます。それがPSRCの一つのポイントです。
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<PSRCの役割>
 PSRCの活動は大きく分けて4つあります。
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(1)Prosperity Partnership
 一つは、Prosperity Partnershipです。先程、CONNECTという話がありましたが、シアトルの広域圏に関わる官民すべての団体がProsperity Partnershipを結成しています。新たに10万人の雇用を生み出そうという戦略を作り、その中でProsperity Partnershipの事務局をPSRCが分担しています。

(2)圏域内の都市成長管理
 2番目が、圏域内の都市成長戦略です。都市整備をバランス良く進めるためにはどうすればよいかということで、これも個別に具体的な面白い話がありますが、交通は都市成長の戦略を左右する要素です。
 公共交通機関も整備しますので、その中には、開発するべき地域と抑制するべき地域がありますが、抑制するべき地域については単に抑制するだけではなく、抑制してくれた代わりに、開発を抑制してくれた土地に対して「そこで開発をしたらこれだけの利益が生まれただろう」と思われる開発の権利を都市側で買うという形で開発権の移転(Transfer Development Right)を行います。このようなこともPSRCが音頭を取って行っています。

(3)圏域内交通計画の立案と実施
 それから、前述のとおり、圏域内の交通計画の立案をしており、これがすべてのことに関係しています。これを立てることによって、連邦政府から補助金を受けています。

(4)圏域内の将来ビジョンの策定
 このようなものを総合して、圏域内の将来ビジョンを創りますが、今はVision2040ができています。
 この中で、先程紹介した7つの要素のいくつかが見られ、地域の分析や横につなぐということができていると思います。
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<Prosperity Partnership>
 ここで、Prosperity Partnershipを少し詳しく紹介したいと思います。
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(1)Prosperity Partnership & the Regional Economic Strategy
 これには圏域内の300余の団体が入っていますが、最近のストラテジック・プランには、いろいろな企業、民間団体、役所、テクノロジーの団体等の名称が挙がっています。

(2)Partnership Co-Chairs
 そして、Co-Chairsとして大学の先生、州の役人、ボーイングのCEO、あるいは地域の市長、YWCAのプレジデント、労働者の代表、また、日本人のTomio Moriguchiという食品関係会社の社長も入っています。

(3)Industrial Clusters
 ここの一つの戦略はクラスター戦略で、一つの企業が成功すると、それに関わるサブ的な企業が育って、地域全体が大きくなるという戦略を採っています。そのために、シアトルが選ぶべき戦略的な産業は何かということもPSRCが分析しています。

(4)A Cluster-Based Strategy
 2005~2007年の雇用の成長率と、圏域全体で働いている人たちの何%がどの業種で働いているか、また、その従業員数のデータを見ると、アメリカ全体の平均を1とした時に、シアトルがどれだけ抜き出ているかということがわかりますし、どの企業が成長しているかということもよくわかります。
 ただし、これはリーマンショック前のデータなので、リーマンショック後は全く違う状況になっています。また、これ以前はAerospace(航空宇宙産業)が低迷していたので、今よりも成長率が低くなっていました。

(5)7つのパイロットクラスター
 そのように、時代によって違うわけですが、そういう時代の変遷を見ながら、シアトルが選ぶべきリーディング産業は何かということを検討するわけです。
 最初は、5つのパイロットクラスターを選びましたが、2008年に2つの産業を追加して、現在では7つのパイロットクラスターがあり、これに対して、それぞれワーキンググループがあります。

(6)ワーキンググループ
 ワーキンググループは、企業や大学等、そのクラスターに関わる団体のメンバーも入ってディスカッションを行います。
 ディスカッションではAnalysisが重要で、これが正に地域分析となります。それぞれの分野の産業について、今、それが世界でどうなっているのか、アメリカ国内でどうなっているのかをPSRCが分析します。
 そのデータをワーキンググループに提供し、そこで出た議論を地域のリーダーたちの集まりに提供します。そして、彼らがいろいろと判断します。判断する前の段階では、市民や労働者たちにも考え方を出して、いろいろな意見を受けて、それを地域の大きなビジョンに組み上げていくという作業をしています。

(7)Measured Competitiveness
 そのようなプロセスの中で、全米の中での立ち位置、世界の中での立ち位置を分析して報告書を出していますが、こうしたものを出しながら、ストラテジーを考えていくというのがここの手法です。
 そして、年に1回、PSRCの全体ミーティングが開催されます。

(8)Four Parts of the New Regional Economic Strategy
 ストラテジーは、分析も含めて4つのパートに分かれています。
 1番目は、現状分析です。前述のように、地域の情報をクラスターごとに分析して、地域の立ち位置がどうなっているかをきちんと評価します。それを踏まえて、2番目は、それぞれのクラスターの中で何をしなければならないのか、何が必要なのかということ。3番目は、今、何を行動すれば良いかということ。4番目は、誰と一緒に取り組むのかということが書かれています。

(9)Cross-Cluster Strategy
 このようにクラスターがいくつもあるわけですが、そのクラスターをつなぐ要素もあるし、あるいは、そのクラスターをつなぐ産業もあるというのが、Cross-Cluster Strategyです。このような部分で、それぞれが一つの仕事になっており、これを育てることが、ある意味ではそのクラスターも育てることになります。
 それらのFundamental Issuesの中にQuality of Lifeが入っています。

(10)2011 Action Items
 そして、シアトルの戦略となるのが、2011年のアクションプランです。
 一つのアクションに対して、それがどの分野に属する話で、どこが実行しなければならないかという責任を明確にし、参加団体に対して「誰がいつまでに実現する」ということを出して、きちんと認識するようになっています。
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●その他の米国の広域都市圏の事例
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<リサーチ・トライアングルの広域都市圏>
 別の事例として、リサーチ・トライアングル・パークの面白い点を紹介したい。
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(1)リサーチ・トライアングル・地域パートナーシップ
 ここにもリサーチ・トライアングル・地域パートナーシップというものがあります。この面積は大阪・兵庫・京都よりも少し大きくて、この中に研究学園都市があり、そこのプロモーションを地域の自治体と商工会議所が一緒になったRTRPという機関が行っています。この機関はニューヨークにもオフィスを持っていて、非常に面白いプロモーションを展開しています。

(2)10の戦略的クラスターの設定
 ここも10の戦略的クラスターを決めて、それぞれに対してどのような作業をしなければならないか、誰が責任を持たなければならないか、何年までに実現しなければならないかということを明確にしています。
 日本の場合は、広域団体でいろいろなことを決めても、どこが責任を持つのかわからないままでなかなか進まないことがありますが、このようにきちんと責任の所在を明らかにして結果を報告させるようにしています。

(3)Business Advance Center
 先程、ワンストップ情報センターの話をしましたが、この地域に立地したいと考えた時にWebサイトの中で必要な情報の箇所をクリックすると、お金の問題、インセンティブの問題等、いろいろな問題についての情報が出てきます。従業員の質や交通の手段、Quality of Lifeまでいろいろな要素をチェックできるように、エリア全体のデータベースを構築しています。
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<グレーター・ワシントン・イニシアティブ>
 もう一つはワシントンの事例で、全世界にアクセスを持っていることをアピールしています。
 バージニア州とメリーランド州とワシントンD.C.という三つの大きな圏域が一つになっていますが、やはり1枚ずつ“ピース・オブ・ピッツァ”を売っていては魅力がないので、“ホール・ピッツァ”で売ろうという戦略で進めています。
 世界37ヶ国と航空網が結ばれていますので、これを活かした戦略を作っています。
 ここもデータの分析等、いろいろな活動をしています。
 それから、最初に紹介した7つの提案になるわけです。

以上
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広報誌『O-BAY』
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