一般財団法人大阪湾ベイエリア開発推進機構
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「大阪湾ベイエリアの戦略的な将来像を探る」連続講演会 第2回
当財団では、大阪湾ベイエリアの産業集積動向や戦略などについて、多様な講師をお招きする連続講演会を開催しております。第2回の講演内容について紹介致します。
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■テーマ: 国内外の企業立地状況と関西の特性・将来性について
■講 師: 財団法人 日本立地センター 常務理事 徳増 秀博 氏
■日 時: 平成22年12月14日(火)13時30分~14時45分
■場 所: ドーンセンター 4階 大会議室3
■参加者: 54名
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講演の様子
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●はじめに
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 本日は、「国内外の企業立地状況と関西の特性・将来性について」というテーマですが、関西の特性・将来性についてはなかなか難しいので、企業立地の状況をお話する中から、「関西はこういう形の方が良いのか」というように聞き取っていただければと思います。
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●企業立地の現状
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<アジアの経済動向と日本の位置づけ>
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(1)最近の実質経済成長の推移
 最近の実質経済成長については、回復はしつつありますが、日本経済はまだまだ苦しい状況にあります。
 GDPの推移を見ますと、輸出にかなり頼るところがありますが、一時期、輸出がかなり落ちて、企業の投資も進まない、立地が進まないという状況でした。その後、輸出は少し回復していますが、なかなか投資の方に企業のマインドが動かないために、厳しいところがあります。
 ただ、これから来年にかけては少し動きが出てくると我々は予想しています。

(2)アジア地域のGDPの推移
 アジアのGDPの推移で注目しなければならないのは、中国です。2000年と2009のデータを比較しますと、日本はそれほど伸びていませんが、中国は大きく伸びています。2000年には、中国、インド、ASEAN諸国を足しても、日本の半分でしたが、中国のGDPは2009年には日本に迫り、恐らく今年は日本を追い越して世界第2位になっていると思います。インドの動きも大きくなっており、近い将来、インドは中国と同じような軌道をたどるだろうと予測されています。
 我々も立地について悩むのは、これだけ経済成長しますと、企業の方が海外へ出て行かざるを得なくなっているということです。中国の13億人、インドの11億人というボリュームゾーンに市場として価値を見出して、企業は立地して行くので、国内の立地は厳しい状態になっています。
 ただ、それでも今後は内需のグリーン産業、特に低炭素の関係で徐々に日本の景気も回復してくるだろうと考えられています。
 また、隣国がこれだけ大きな経済ボリュームを持っているということは、日本にとっては良い事だろうと思っています。これを脅威と感じるか、チャンスと捉えるかは、企業の大きな分かれ目であり、中国の大きさをチャンスと捉えている企業は多数あります。
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<変動する企業立地>
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(1)リーマンショックで企業立地大幅な落ち込み
 リーマンショックで企業立地は大幅に落ち込みました。
 高度経済成長時代は立地件数も多く、加工組み立てなど労働集約型の工場が地方へ進出しましたが、当時の日本企業は、安い土地、安い労働力を求めて地方に進出したわけです。
 それが、オイルショックで落ち込み、その後、バブル期とその崩壊を経て、現在に至ります。経済成長はいざなぎ景気を超えると言われ、景気が良くなってきたこともありましたが、立地については、投資の方に結び付かなかったというのが大きな問題で、将来的にも、バブル期のような大きなボリュームにはならないだろうと思われます。
 しかし、平成22年を底として、いろいろな問題はありますが、来年は立地も少しずつ回復するだろうと予想しています。

(2)国内立地と海外生産
 特に、国内と海外生産を見ますと、海外生産は右肩上がりで、海外への立地は仕方がないという状況ですので、企業としては外への市場拡大を狙うことになります。
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<工場立地の転換点 ~ 新たな産業集積の胎動>
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(1)輸出型産業の工場立地は2極化へ
 私が考えるところでは、輸出産業の工場立地は二極化しています。中国やインドが非常に大きな人口を抱えているので、そのボリュームゾーンへの立地は避けられません。世界がそこに挙って市場を求め、立地しようとしていますので、日本企業もそこに立地せざるを得ないわけです。立地の形態はいろいろありますが、昭和40年代半ば頃までの高度成長時代の勢いで、ボリュームゾーンへ出ているという状況です。
 それに対して、国内の立地は国際競争力の中で非常に厳しい状態になっています。どのような形で生きていくかが問われており、今はちょうど転換点にあると思いますが、それについては、前々から母工場という言葉がよく言われます。今、日本の企業のものづくりは、新技術、試作生産ラインが主体の母工場化に向かわざるを得ないと言えます。

(2)新たな産業集積の芽
 また、今、新たな産業集積の芽として、環境・エネルギー産業の立地展開、そして、航空機産業の集積が出ています。特に、環境・エネルギー産業については、経済産業省の後押しとして補助金等もあり、企業の投資が一気に増えるだろうと予測しています。

(3)製造業の知識集約産業への転換
 母工場型とほぼ同じように、製造業の知識集約産業へ転換せざるを得ないというのが、今、日本のものづくり産業の転換になっていると思います。

(4)高まる大学の役割と人材育成
 そして、ものづくりを支えるためには、大学の役割と人材育成が非常に重要になります。
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<立地の変化>
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 ここで、立地の変化を具体的に見たいと思います。

(1)工場再編型立地
 今、大きく動いているのは工場の再編です。
 例えば、今年の12月に鹿児島県出水市のNECの工場とパイオニアの工場が閉鎖され、300人ほどの従業員が解雇されました。近くにある京セラや、NECの再編の中で秋田の方に30人ほど行きましたが、なかなか難しい状況で、300人近い従業員が解雇になったわけです。
 このように、高度成長時代やバブル期に地方に出た工場が再編されているのが現実です。パナソニックは再編の最中で、今は収まったようですが、今年度、約15,000人の雇用整理をしています。全国で相当な数のパナソニックの工場が再編され、閉鎖となっています。ただ、新しいところにはどんどん展開していくというのがパナソニックの方向ですので、選択と集中が大きな動きとなっています。

(2)工場の海外展開
 もう一つは、海外への展開です。リーマンショックはある程度、金融の問題でしたので、ものづくりに対してそれほど打撃を受けていない新興国は立ち上がりが早く、市場が拡大しています。
 特に、中国の13億人、インドの11億人の中間層をターゲットとして、企業のものづくりの進出が活発化しています。

(3)グリーン産業の投資増加
 その他、次世代自動車、二次電池産業、太陽電池、LED等のグリーン産業も投資が増加しています。

(4)リスク分散
 また、リスク分散が言われています。特に、東海沖地震の関係で、静岡県や愛知県にある企業は新しい工場を地方へ展開しています。
 例えば、敦賀市にTFCという巴川製紙所と日本ゼオンの合弁会社が立地していますが、これは、この会社の母体である巴川製紙所が、静岡県の用宗(静岡市駿河区)というところに本社工場しかなかったために、災害が起きた時のことを考えて立地してきたものです。
 この会社は優秀な技術を持っており、鉄道の自動改札用の切符関係を作っている、電子関係に強い会社で、その会社が日本ゼオンと一緒に液晶フィルムを作るために合弁会社をつくったわけです。しかし、今は、リーマンショックで経済が落ち込んで厳しいところがあります。
 また、プライムアースEVエナジーはパナソニックEVエナジーが名称変更したもので、宮城県に立地しています。元々パナソニックとトヨタの合弁で設立され、当時は49:51の比率でしたが、パナソニックが段々と手放して、トヨタ中心になり、現在、パナソニックは19%程度しか株を持っていないと思います。これは静岡県湖西市に本社がありますが、ニッケル水素の電池を作っているので、地震のリスクを分散するために宮城県に工場を建設しています。
 日本ガイシも愛知県にありましたが、日本海側の石川県に出ています。
 このような動きは全国的に見られます。特に、新潟県で起こった地震で、ある自動車の部品メーカーが被災して製品ができなくなったために、トヨタもホンダも大変な影響を受けたということから、会社としても供給責任という形で、それぞれ新しい工場を地方へ持っていくという動きになっているわけです。

(5)立地のスピード化
 それから、立地のスピード化が叫ばれています。
 大手A社の場合、用地選定は3ヶ月~6ヶ月で行いますが、そこに工場用地がなければ相手にしません。したがって、自治体の方が誘致に来られても、山や田んぼを提示されたのではどうしようもありません。山を崩して3~5年先に工場ができるようになるという話を持って来られても、現在のように商品の寿命が短くなり、それにいかに適応するかというスピード化が工場生産の中で大きなウェイトを占める状況では、3年も5年も待っていられません。
 したがって、今、ベイエリアが注目されています。中でも、大型のパナソニックのプラズマの工場、バッテリーの工場、シャープの堺などが注目されるのは、このような背景があるためです。

(6)研究開発型母工場への転換
 また、研究開発型母工場への転換もあります。
 ソニーの熊本工場は、ソニセミコンダクタ九州という会社になり、完全に研究開発型工場に転換しています。従業員は1,300~1,400人ほどですが、大半が研究者で、大学の工学部の卒業生です。ここで中国やアジアの生産との調整、研究をして、それをアジアに供給するという動きをしています。
 ここでは今、CMOS(シーモス)という新しいセンサの研究開発をしています。ソニーやキャノンのカメラのセンサが一番の心臓部ですが、それについて、ここを中心に研究をしています。
 立地はこのような形態に変わっていますが、恐らく、このような形でしか国内の立地の方向性は見られないのではないかと思われます。
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●企業立地・投資の状況
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 もう少し具体的に、企業立地の投資の状況についてお話しします。若干、我々が予想をしているところもありますので、疑問を感じるところがあるかもしれませんが、企業からヒアリングをした内容をまとめたものです。
 自動車関連産業、環境・エネルギー産業、航空機産業についてお話しいたします。
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<自動車関連産業の動き>
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(1)次世代自動車の発展形態
 現在、マツダが考えている次世代自動車の戦略によりますと、特に注目すべきは電気自動車、電気デバイスですが、マツダは「2020年まではまだ内燃機関が主体である」と予測しています。我々は電気自動車の時代になると思い込んでいますが、まだまだ将来的にもエンジンの部分が続くということです。
 トヨタの方々も「2025年まではエンジンが主体」という話をしています。いかにもすぐに電気自動車に変わるようなミスリード的な報道がありますが、以前としてエンジンの車は生きていくということです。ただし、そのウェイトは段々と確実に小さくなるだろうと予測されます。
 このエンジンの中で、いかに省エネルギーの仕組みを作るかということが、今の技術の進歩になります。したがって、マツダは今、「アイドリングストップ」を提唱していますし、エネルギーを逆に取り込んでいく技術を作り出していくという仕組みで、あくまでもエンジンを中心に展開しています。

(2)動き出す次世代自動車生産
 そういう意味では、まだまだエンジンのウェイトは大きいようですが、トヨタグループのセントラル自動車は、2011年1月に宮城県大衡村で約44haの工場を本格操業する予定で、今はテスト操業を行っているところです。
 関東自動車は、岩手県でトヨタの小型車「ビッツ」のハイブリッドを生産する予定です。実は、ホンダも(小型車を)生産する予定ですので、「プリウス」と「インサイト」の戦いと同じように、トヨタとホンダの戦いになりますが、技術者によると「ビッツ」は約150万円の販売価格を考えており、ホンダもその程度の価格設定にしたいということで、互いに相手を見ながら検討しています。
 ホンダは埼玉県寄居町の工場を2013年に稼働する予定です。リーマンショックでこの工場はストップしていましたが、100haの工場が再開する予定で動き出しています。
 ホンダの鈴鹿工場でも、新小型低燃費車をつくる予定です。詳しい内容はまだ発表されていませんが、我々がヒアリングした中では、そのような話でした。
 日野自動車も、低燃費のディーゼルエンジンを開発しています。日産自動車は今週、米国で「リーフ」を発売しましたが、追浜工場で生産しています。また、高級車の「フーガ」のハイブリッド生産を栃木県の工場で行う予定であり、その工場を見学しましたが、詳細はわからないながらも、そのような動きのようでした。
 その他、マツダ、三菱自動車も動いており、三菱自動車は電気自動車の「i-MiEV」が出たので、2013年度には商業車の生産を目指す動きをしています。
 これはあくまでも我々のヒアリングによる情報なので、本当に各メーカーがこれを生産するかどうかは心配な点もありますが、大体はこのような動きではないかと思います。

(3)次世代自動車に取り組む企業
 次に、東京で開催されたモーターショーに出展された次世代自動車を紹介します。
 一つは、Takayanagiという会社がつくった車で、価格は600万円です。元は高柳木工所という浜松にある会社ですが、この会社が完全に自動車をつくったわけです。トヨタ、ホンダ、三菱ではなく、全く名前も知られていないような会社がつくってしまうところに、電気自動車、次世代自動車のおもしろさがあります。
 Takayanagiの車はバッテリーを積んでいるだけですが、このバッテリーは自社製品ではなく、サンヨーのバッテリーを使って組み立てています。内燃機の場合はガソリンを積みますので、危険物として国の規制がありますが、バッテリーの場合はそういう問題がありません。リチウムイオン電池で少し熱くなることはあるかもしれませんが、それは電池メーカーの問題であり、この会社としては関係ないわけです。
 もう一つ、早稲田環境研究所が電気自動車モデルを出展していました。
 トヨタの「プリウス」のプラグインハイブリッドも展示されていましたが、これはもうすぐ出てきます。
 このように、電気自動車の時代になるといろいろなメーカーが登場すると考えられ、中国ではすでに200社くらいの自動車メーカーが生まれているようです。つまり、電気自動車はフォークリフトのようなものなので、電気と組み合わせればできてしまうという世界になるわけです。したがって、トヨタ、日産、三菱も油断できないというのが実情です。
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<環境・エネルギー産業の動き:二次電池の設備投資動向>
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(1)自動車用電池の種類
 電気自動車の心臓部は電池です。リチウムイオン電池やニッケル水素電池がありますが、前述のプライムアースEVエナジーの湖西市の工場と宮城県の工場での2ヶ所で作られたニッケル水素電池が「プリウス」に搭載されています。
 ホンダの「インサイト」の場合は(電池が)若干丸型になっており、会社によってかなり違っています。「インサイト」の電池はジーエスユアサとの共同によるブルーエナジーで作って搭載しています。
 ジーエスユアサは三菱の「i-MiEV」に載せる電池も作っていますが、このバッテリーは栗東町に新しい工場を生産しており、これを大量生産して載せる予定です。ただ、栗東町は第1期の工場が建ち上がり、近々第2期の区画整理事業で分譲が開始される予定です。栗東町によると公募ですから、どこになるかわからないという話もありますが、ジーエスが入るだろうと言われています。したがって、実際はまだ公募という形ですが、恐らく、第2期は栗東町で新しく工場用地を拡張したところに入るだろうと予想しています。

(2)次世代自動車用二次電池を巡る出資・供給関係
 次世代の二次電池は、様々なメーカーが相互に連携して開発しています。例えば、ジーエスユアサはリチウムエナジージャパンを設立して三菱自動車に入りますが、東芝も三菱に入れています。
 このような中で、我々は立地の関係でいろいろなメーカーにヒアリングをしていますが、今後、この世界はどのように動くかわかりません。例えば、ジーエスユアサと日産と提携するかもしれませんし、東芝も他のメーカーと提携するかもしれませんので、今後はかなり複雑に企業連携が行われるだろうと予想しています。
 近々、いろいろと新聞情報が出るかもしれませんので、その時は「あの話か」と思っていただければと思います。

(3)自動車用二次電池の設備投資動向
 特に、現状では、電池関係で立地、設備投資が起きています。
 前述のとおり、プライムアースEVエナジーの本社工場は静岡県湖西市にありますが、ここもすでに一杯になっています。そのため、現在、ここではニッケル水素電池を作っていますが、リチウムイオン電池も作らなければならないので、今はトヨタ本社の近くの工場でリチウムイオン電池を生産しています。
 ここに載せる電池として作っていますが、研究開発的に良いものができないために、三洋電機などの技術もどこかで借りなければならないのではないかという話も出ています。
 三洋電機は、加西の工場で新しく電気自動車の実証実験を開始しています。近々量産に入るということで、リチウムイオン電池関係の世界は激しく動いています。
 パナソニックも大阪市に住之江工場を建てましたが、アメリカのテスラモーターズと提携して、一部ではテスラのバッテリーは住之江で作るのではないかという噂も出て、有力視されています。この辺りはどのように動くかわかりませんが、いずれにしても、アメリカのテスラモーターズとパナソニックとトヨタが提携すると、関西にとって非常に大きなバッテリー基地になるだろうと思われます。

(4)二次電池生産拠点位置図
 実際に、全体的に見て、関西は大きなバッテリーの中心地になるだろうと思われます。東北・関東は工場立地があまりないので、どうしても関西が大きな生産基地になると見られています。

(5)主な二次電池材料メーカーの設備投資
 部材についても、企業の設備投資が増えています。特に、福井市の工業団地にある田中化学研究所は、今年も新しく増設しており、今後も増設の予定です。リチウムイオン電池の正極材を作っているメーカーで、中小企業なのでご存知ないかもしれませんが、日本の電池産業では大きなウェイトを占めています。
 それから、今年、ポートアイランドに外資系のumicoreが入っています。電池メーカーが関西に増えているので、海外からも関西が電池の集積地域として認識されて、外資系の企業も部材で入ってきているということです。
 経済産業省の補助金も今年の300億円の中で交付しながら支援しています。

(6)次世代自動車の普及の条件設備
 また、電池の場合、充電器の設置が大きな問題になります。そのため、電気自動車の急速充電方式の統一とインフラ普及を推進するためにCHdeMO協議会が設立され、東北地方では東北電力と青森県が参加していますが、関西は多く、その他、国内でも各地で取り組まれています。
 三菱自動車の方に伺ったところ、CHdeMOについては、まだドイツの方で形式的には賛成を得られていませんが、米国、英国は日本のCHdeMOで進めたいという意向ですでに充電器が設置されていますので、これが世界標準になると非常に良いと思います。
 ただし、冒頭にお話ししたように、マツダ等の考えでは、都市計画の中でガソリンスタンドを充電器に変えるには相当な時間がかかるだろうし、電気料金の回収方法等、まだまだ解決しなければならない課題がたくさんあり、普及までには時間がかかるだろうと見られています。
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<環境・エネルギー産業の動き:太陽電池の設備投資動向>
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(1)太陽電池の市場動向
 もう一つ、今、太陽電池が関西では大きなウェイトを占めており、その一例として、シャープが堺に立地しています。
 ただ、日本は元々世界の中でシェアが高かったのですが、2009年に中国が35.5%という高いシェアを占めたのに対して、日本のシェアは段々と世界の中で落ち込んでいます。

(2)太陽電池のメーカー別生産量
 これは、中国の安い製品が続々と日本に入って来ていることを示しています。
 ドイツのQセルズも、そういう面では経営的に厳しくなっています。元々、Qセルズはトップでしたが、今は米国のファーストソーラーがトップになっています。
 中国のサンテックが出てきた途端に価格の下落が大きくなり、太陽電池も苦しい業界になってきました。つまり、ボリュームのあるところが入ってくると、製品の価格が落ち込み、日本のメーカーのランクが段々と落ちているというのが現状です。

(3)関西圏の太陽電池の設備投資動向
 ただ、日本の中でも、補助金によって太陽電池は結構伸びてきました。
 その中で大きいのは、関西における太陽電池の設備投資です。三洋電機は、貝塚市の二色浜の工場で生産していますし、瀬田工場も増強する予定です。
 先日、パナソニックの方と話したところ、三洋と一緒になってチャンネルが大きくなったので、三洋電機の生産設備が追いつかなくなり、貝塚市の工場も一杯になったので、どこかに工場を探さなければならないのではないかという話も出ています。今後、どのように動くかはわかりませんが、当面は、貝塚の工場の余ったところを使おうという話になっています。一時期、兵庫県の尼崎のプラズマ工場で生産してはどうかという話もありましたが、パナソニックによると「あまり良い返事はなかった」ということです。
 京セラも懸命に増設しており、特に、滋賀県野洲市で生産拠点を増設しています。
 SUMCOソーラーも和歌山県海南市で生産しています。
 インゴッドの部材関係で、TKXも滋賀県の長浜で生産しています。
 このように、今、太陽電池関係は関西で大きく動いています。

(4)太陽電池のセル・モジュール工場の立地
 太陽電池も関東はあまり立地がなくて、関西の立地が大きくなっています。さらに、九州も出てきているので、太陽電池の関係は西高東低になっています。
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<低炭素型雇用創出産業立地への補助>
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(1)地域低炭素型雇用創出産業立地推進事業補助金
 地域低炭素型雇用創出産業立地推進事業補助金については、経済産業省で聞き歩いたところでは、1,100億円の補助金を今週中に決定し、来週くらいには発表したいという話です。
 これは企業に直接出る補助金で、平成21年度は297億円の補助金でしたが、リチウムエナジージャパンにも三洋電機にも出ています。297億円の予算の時は42件の採択でしたが、1,100億円の予備費に対しては280件程度の応募があったということですので、この分野ではそのように、かなり大きな投資が今後も期待されると思っています。
 この中で関西は46件の応募があったと聞いています。したがって、関西では、今後、低炭素型の投資が増えると思われます。

(2)参考:欧米における低炭素型雇用創出産業立地助成金
 海外では、オバマ政権が電池産業への立地助成金を作っています。経済産業省は、日本のような補助金を作って海外に出る企業を直接補助することがWTOに違反するのではないかと懸念していましたが、海外はこのような助成金の仕組みを作っていますので、日本も遅れないように補助金を整備して、日本の産業を強くしようとしています。
 このような状況で、来週、1,100億円の予算が決まる予定です。
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<ポスト自動車としての航空機産業の取り組み>
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 次世代自動車、バッテリー関係の太陽光電池等と併せて、今、注目されているのがポスト自動車としての航空機産業です。
 大阪にも次世代航空機部品ネットワークOWOがありますが、各地域でいろいろな取り組みが行われています。特に、B787には三菱重工、川崎重工等、数十社が関わっており、機体部品の35%が日本の中で生産されています。12月に全日空が初飛行する予定があり、これは延期になりましたが、本格的な実用となると、機体の35%を生産しているということで非常に大きなビジネスチャンスになります。事実、世界中でB787の受注は多く、すでに1,000機の受注があるそうです。
 もう一つ、三菱重工の小型ジェット旅客機(MRJ)があと2年ほどで初飛行の予定であり、これを含めると、現在、0.29%という日本の航空機産業がGDPに占める割合はもう少し伸びると思われます。日本は、敗戦後、航空機の製造を米国に規制されたために航空機産業を伸ばすことができませんでしたが、ドイツはその後、製造してGDPに占める比率を伸ばしていますので、少なくとも、カナダやボンバルディくらいの力になってほしいというのが、日本の航空機産業の考えです。
 そのために、宇宙航空研究開発機構(JAXA)もエンジン関係や機体の部材関係を研究しています。それに中小企業も参画を目指しているという状況です。
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●自治体の企業誘致活動
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 次に、自治体の企業誘致活動について説明したいと思います。
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<企業誘致活動の現状と課題>
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(1)自治体の企業誘致について
 「日経グローカル」の調べによりますと、県庁と政令都市を併せて、現在、誘致の担当部署を設置しているところが増えています。もちろん、大阪府、大阪市、ベイエリアの地域は担当を置かれていると思います。
 これについて、現在、経済産業省は、立地手続きのワンストップ窓口の普及を目指して、事例的なものを作成しているところですので、近々、発表されると思います。自治体はそれに倣っていただければと思います。

(2)自治体の企業誘致の課題と対応
 誘致活動は課題もあります。特に大きな課題は、立地企業が減少しているということですが、前述のように企業が海外に進出していますので、これは仕方がないと思います。
 それから、工場の再編、縮小も大きな課題です。一方では懸命に誘致しますが、もう片方で次々に工場が閉鎖されるという問題もあります。昨年、NHKの「クローズアップ現代」が行った調査では、全国で97社が撤退しています。
 そこで、ターゲット産業をどうすれば良いかということが課題になりますが、それに対して、今、どの自治体も環境・エネルギー産業を誘致のターゲット産業に挙げています。

(3)事例:三重県の新企業誘致活動
 特に、三重県は東芝四日市工場の増設に補助金を出すなどの優遇策を作って誘致活動を行っています。
 今までもクリスタルバレー構想によって、シャープを誘致する際に90億円を出すという政策がありましたが、これを改変して環境・エネルギー関連分野の誘致強化として、この分野に進出する企業に補助金を出すようにしています。
 それから、拠点化で誘致活動を強化しています。つまり、外から入れるよりも、撤退されては困るので、内部で増設していただいて強化していくことに力を入れています。
 先程、1,100億円という国の低炭素の予備費を紹介しましたが、このように、三重県や岡山県、北九州市などは、それに加えて、中の設備投資に対しては自治体の補助金も出すという動きになっています。
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<自治体における中小企業のグローバル化支援>
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(1)中小企業のグローバル化支援に動く自治体等
 もう一つ、大きく変化しているのが、中小企業のグローバル化支援です。これは立地とは正反対で、このままでは日本の中で中小企業は死んでしまうので、何か対策を講じなければならないということです。
 例えば、中国華東地域、つまり上海地域に対して、東北経済連合会が自ら率先して連携を図っており、すでに山形県の天童市と無錫市との企業提携ができています。
 要するに、中小企業のグローバル化をどのように支援するかということが、企業誘致と共に自治体の大きな産業振興の柱になりつつあるということです。

(2)中国に「しずおかむら」をつくる
 これは今、大きく動いており、例えば、静岡県では中国に「しずおかむら」をつくり、友成機工、パントウネ、ヤマハ楽器等の静岡県の企業が立地しています。これは誘致もさることながら、地元企業を大きくしたい、このまま死なせてはならないという取り組みとなっています。
 私は静岡県の浜松の出身ですが、静岡の中でもスズキ自動車は大きな動きを見せています。スズキ自動車はインドに最初に出ましたが、中小企業に対して「仕事がほしければインドに来い」という厳しい姿勢をとっています。中小企業の辛さはそういうところまで出ています。そのような対応は行き過ぎではないかとも思いますが、そうしなければ日本国内では生き残れないのです。スズキ自動車としても日本国内は母工場的な動きになり、下請け関連会社も選択して、研究開発に重要な下請けだけ残すので、大量生産に関する企業はインドで仕事をしなければならないというわけです。
 そういう動きもあって、中国に「しずおかむら」をつくるという形になっています。

(3)企業の立地のポイントは人材
 それから、先程の母工場の立地について、一番求められているのが人材です。
 ある自動車部品メーカーが工場を建てる時に作成したマトリックスでは、100点満点中、人材が50点満点、安定性が10点満点、他が何点というように割り振られており、人材が大きなウェイトを占めています。工場を地方に持っていく時は、やはり人材があるか、ないかによって大きく違います。
 このマトリックスを作成した会社は愛知県の大手メーカーですが、結果的に北海道に入りました。担当者は九州にいたので、「北海道には行きたくない」と言っていましたが、このような客観的データによって出ざるを得なくなりました。それだけ人材というのは、今後の企業を大きく左右するものであり、重要な要素です。特に、大学の技術者、技能者の有無が大きく左右すると思います。
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●関西の特性と将来性
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 それでは、これらの状況を踏まえて、関西の特性と将来性についてお話ししたいと思いますが、冒頭に述べたとおり、私は特に関西に詳しいわけではありませんので、違う意見を持たれる部分もあるかもしれません。その点はご容赦いただきたいと思います。
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<知識集約型産業に転換の芽>
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(1)関西圏の特性
 関西の特性は、やはり知識集約商品が多いことで、その発祥の地だろうという意識があります。パナソニック、シャープ、三洋という大きな知識集約企業は関西から出ていますし、二次電池も同様です。特に、京都は京セラ、村田製作所、ロームという部品メーカーが多く、機械もあります。これは一つの地域性であり、そのようなものをつくる発想があると思います。
 高速交通網の結節地域であるという特性は、ご存知のとおりです。
 大学連携という面でも、ノーベル賞受賞者多いことが挙げられます。ノーベル賞を受賞される方は一風変わった方が多いのですが、そういう人材を輩出している京都大学や大阪大学、立命館大学等があります。やはり、大学は非常に重要ですので、その点が活きているという特性が関西にはあると思います。

(2)関西における知識集約型産業への転換
 そのように考えますと、やはり、関西では知識集約型産業への転換が考えられます。
 究極の知識集約工程は研究開発であり、特に、液晶やPDPを見ますと、組み立ては海外に出ていますが、心臓部は日本に残っています。これは関西にあります。
 また、京セラのICパケージは大変なノウハウで、あのセラミックの焼き方は絶対に真似できません。これはどのメーカーも異口同音に言っていることですが、やはり関西で作られています。
 FAや産業用ロボットが主力製品のファナックは関東の企業ですが、ファナックの社長の稲葉氏も変わった人物で、いろいろな取り組みの中で、大阪でロボットをつくりたいと考えて展開しています。
 また、知識産業を脱工業化社会と言った米国の経済学者等もいましたが、あれは幻想だろうと思っています。ネットやソフト、金融等では経済を支えられないだろうということが、リーマンショックによる金融危機によってよくわかったのではないかと思います。
 したがって、米国のものづくりの衰退が米国の貿易赤字の凋落を招いているのではないかと思います。1987年に出されたハーバード大学の論文は、まさしく現在の米国を予想しており、ものづくりを軽視した米国という要素が大きいと思われます。

(3)参考:日本の製品開発力
 ただ、米国も非常に良いところがたくさんあり、日本にも非常に良いところがあります。
 米国商務省の資料によりますと、発明と商品化を見た場合、発明は米国が多くなっていますが、日本は商品化が得意で、発明はほとんどありません。発明は75%が米国、25%が欧州で、日本は0%です。しかし、商品化は日本が60%ですので、やはり、日本はものづくりが得意な国だと言えます。
 前述のハーバード大の論文にも、「米国は発明はするが、日本や台湾などの国が商品化して付加価値、応用を取っていく」と書かれていました。その背景には、日本人が強い個性、奇人、変人というものをあまり好まない傾向にあり、「オタク」と言うと変な眼で見られるところがあるのに対して、米国はそうではなくて、逆にそういう人間を育てているという違いがあります。米国は移民の国なので、いろいろな国の人がいて、いろいろな発想ができるということであり、それを応用するのが日本だと思われます。
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<グリーンベイへの取り組み>
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(1)ベイエリアをグリーン産業のメッカに
 そういう中で、関西は、母工場的な新しい産業を育てられる独特の発想を持った地域性があるので、そういうものをもっと育てなければならないと思います。足を引っ張るのではなくて、投資に対して自治体や地域が応援をしていくべきです。
 そういう意味で、ベイエリアをグリーンベイにしていくべきだろうと思っていますし、付加価値化構造への転換が重要です。

(2)グリーン産業の誘致施策の展開
 そのためにも、施策をどう展開するかという問題があります。経済産業省は1,100億円の補助金を出しますが、それに対して関西地域からは「投資をしたい」という企業が40社余り出てくるわけですから、そういうものを後押しするべきだと思います。集中と選択で、こういうものに対して支援をするような施策が必要になるだろうと思っています。
 それから、環境・エネルギー関係のネットワークも必要ですが、これは今、日本にはほとんどありません。互いの会社の秘密事項が多いためにネットワークを作るのが困難なのですが、やはり、関西に環境・エネルギー分野の企業が来るなら、「ここは世界的な中心になっている」と言えるようなネットワークをどこかで作らなければならないと思います。
 要するに、今後のCO2削減の世界の先進として役割を担うのは、関西のベイエリア地域だろうということです。
 そういう中で、岩手県の岩手ネットシステム(INS)、関西の関西ネットワークシステム(KNS)というネットワークがありますが、岩手県は岩手大学を中心に岩手県の産業をサポートしており、それを真似てKNSが作られています。

(3)産学ネットワークで研究開発型工場へ
 岩手の研究ネットワークで出来上がった工場の事例を紹介しますが、これはホンダのリチウムイオン電池のキャップ部分の表面処理の会社です。
 これを作り出したのがINSです。この会社は岩手大学まで足を運んで、いろいろな先生から技術を学んだわけですが、この中間にINSがあり、そこが中心となって展開したということです。
 中小企業はこのようなことをしなければ生き残れないということだろうと思います。

(4)大学とのネットワークで研究開発型工場へ
 次は、ソニー熊本テックの事例ですが、これも九州大学との産学連携が非常に大きいと言えます。今後、ソニーはCMOS(センサー)で大きく新しい展開をしますが、このような母工場が出来上がるというのが本来の日本の工場の姿だろうと思います。
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<関西を日本のアジア拠点に>
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 最後になりますが、今、経済産業省は、日本のアジア拠点づくりに取り組んでいます。これは、世界の中、アジアの中で日本の地位が落ちているので、日本国内投資促進プログラムを作ろうとするものです。
 しかし、なかなか難しいところがあり、特区にして指定した地域に対し、税金を安くする等のインセンティブを与えるのは困難なので、今、企業認定に向けた取り組みが行われています。
 先日、発表された投資促進プログラムの中にこれが入っていますので、是非、関西もアジア拠点を目指してほしいと思います。むしろ、北ヤードや、大阪湾というものづくりのベイエリアがあることも含めて、アジアの中心地を目指すべきだろうと思っていますので、是非、取り組んでいただきたいと思います。

以上
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広報誌『O-BAY』
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